泣いて赤くなった目許をメイクでごまかして仕事に戻った。
戻った途端言われた「長い昼休みやったわね」との上司の小言に「すみません」と謝罪して急いでカウンターに入る。その後も小言を覚悟していたけれど、休憩に入る前より明らかに憔悴している私に何か察したのか上司はそれ以上何も言ってこなかった。
あれからトイレに駆け込んで思い切り泣いた。どこにこんなに残ってたのってぐらい涙を流して泣いたら、気持ちが少し楽になっていた。
仕事にまで影響させて、自分は一体何してるんだろうと思う。一週間でちょっとは立ち直ったかと思っていたけれど、やっぱりまだまだの様だ。
こんなに辛いのは初めてで、どう対処したら良いのか分からない。
それでも忙しく体を動かしていたら、多少なりとも気は紛れた。
後はこのまま傷が癒えてくれたら、何事も無かった様に過ごせる筈だ。
終業後帰り支度をしている私に、仲の良い同僚達がこの後予定は有るか聞いてきた。特には無いと答えると、一緒に食事はどうかと続けて聞いてくる。昼間の私を気遣ってくれているようだった。彼女達の優しさに、ぽっと心が温かくなる。
けれど、今日はどうしてもそんな気分になれなくて、丁重に断りを入れて職場を後にした。
職員用の通用口を出た途端、夜になってさらに冷たさを増した冬の寒さが身に染みた。足元からはい上がって来る冷えにブルッと一つ震えて、マフラーに顔を埋め足早に帰路につく。
図書館の正面入口へ向かって歩いているとそのうちエントランス前の広場に差し掛かる。昼間財前君と会ったのはこの場所だ。
(そういえばあの後、財前君一回も見かけなかったな……)
閲覧室にも他の施設にも彼の姿は見当たらなかった。
(……悪いことしちゃった)
動転していたとはいえ、お世話になった相手を、碌に挨拶もせず置き去りにしてしまった。気分を悪くさせたとしても、おかしくない。
(次もし会えたら、ちゃんと御礼しないと……)
今は取り敢えず心の中で謝って、足早に広場を通り過ぎようとした時、ふと視界の隅に何かを捉えた。違和感を覚えて立ち止まり、そちらへ目を向ける。
昼間財前君と話をしたベンチ。そこに俯いて座る、人。その姿には見覚えがあった。
- 4 -
[*前] | [次#]
ページ: