その後も他愛ないお喋りが続いたけれど、財前君は私の涙の理由を聞いてこなかった。

弾む会話の中で、彼がまだ高2だと知って驚いた。私より下だと初めに本人が言っていたけれど、雰囲気が大人っぽかったから(耳のピアスには驚いた)てっきり大学生だと思っていたのにまさかの7つ下。
「最近の若い子は分からない」
と呟いたら、
「一夏さんは、子供っぽいっすわ」
と返された。
今までの言動を見てきての言葉だろう、図星過ぎて返す言葉も無い。会話していて思ったけれど、人の気にしている事をさらっと言うあたり彼はなかなか意地悪だ。私の呼び方も、いつの間にか名前になっていた。
でも不思議と嫌な感じはしない。
生意気な弟が出来たみたいで、何だか微笑ましく思った。



「そういえば何処の高校に通ってるの?」
散々財前の事を聞いていたのに今更な質問。
何気なく口にした台詞だったけれど、次に彼が発した答えで、その質問をした事をとても後悔した。

「……四天宝寺」
「…………えっ」

何故か不自然に間を取って、財前君は言った。

言葉が耳に飛び込んだその瞬間身体が竦み、直ぐに何も分からなくなる。財前君を見ている筈なのに視界は暗く、周りの音も入ってこない。座っていたベンチの感覚もなくなりどちらが上でどちらが下なのかも判断出来ない。まるで無重力の闇の中へ放り出されたみたいだった。


『四天宝寺』


辛うじて残った脳の冷静な部分で今の単語がゆっくり解析されていく。

出来れば二度と聞きたくなかった。
忘れもしない。否出来ない。

四天宝寺は彼が勤めていると言った学校だった。
浮上した気持ちが、またどん底へ落ちていく。

「一夏さん?」
「ごめん財前君、私もう行くね」

覗き込んでくる財前君の視線から逃れるように顔を逸らす。

ダメ。この場に居られない
此処に居たらまた財前君に迷惑をかけてしまう。

今にも溢れ出そうな涙を堪えて私はそこから逃げ出した。



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