「あの、ありがとうございました。えっと……」
「財前光言います。あと自分のが年上なんで、敬語は使わんで下さい。なんや気持ち悪いんで」
「……ありがとう、財前君」

あの後、差し出されたハンカチを有り難くも頂戴して涙を拭いた。その間に彼は何処かへ行ってしまったけれど、暫くしてホットドリンクを手に戻って来た。

「どうぞ」

私の隣に腰を降ろすなり、持っていたボトルを差し出される。

「えっ私に…くれるの?」
「はい」
「ありがとう。あっお金」

ドリンクまで奢ってもらう訳にはいかないと、咄嗟にコートのポケットを探る。しかし出てきたのはケータイだけ。財布は職場のロッカーに眠らせたままだった。
どうしようとわたわたしていると、隣からぷっと吹き出す声。見ると財前君は声を押し殺しながら肩を震わせて笑っていた。

「ちょ…何で笑うの?」

笑われる程おかしな行動をとっていたのだろうか。

「すみません。百面相してるんが、なんや可愛いな思いまして」

思いがけない台詞に、抗議の言葉は喉を滑り落ちて行った。恥ずかしくなって、私は更にわたわたし、そんな私を見て財前君はまた笑った。


「俺が好きで買って来たんです、大人しく奢られとって下さい」

暫く笑った後財前君はそう言ってくれた。何となく笑いを堪えながらだったのは、もう気にしない。
それよりも会って間もない男の子に、お世話になった挙げ句、奢らせてしまった自分が情けなかった。
「でも…」と続け様とした言葉も、無言の笑顔に押し込められる。どうすることも出来なくて、言われた通り大人しく奢られる事にした。

「じゃあ戴きます」
「はい」

一口飲むと、芯まで冷えた身体に温もりが戻る。偶然にも、財前君が買って来てくれたのは私が愛飲しているもので、それもあってほっと一息着けた。


普段通り思考が働くようになると、私はまだ名前すら名乗ってない事に気が付いた。

「私の名前、まだ教えてなかったよね」
「知ってます。『間宮一夏』さんやろ、この図書館で司書しとる」
「えっどうして…?」

すっと彼が指差す先を見て納得した。首から提げたネームカードが揺れる。

……あれ、でもこのカードには間宮としか表記されてないのに、なんで名前まで……

疑問に思ったけれど、もしかしたら財前君はここをよく利用してくれているのかもしれない。
仲の良い職員同士なら名前で呼び合っている事も有るし、それをたまたま聞いたのだろうと、結論付けた。



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