ネットで知り合った彼に一方的に別れを告げられたのは、日付が変わった頃だった。

その人はブログを始めて、一番最初にコメントを残してくれた人で、嬉しくてコメントを返したら、彼もまた返事を返してくれた。ブログを更新する度、彼のコメントが残されていて何度もやり取りしている内に、好きだと気付いた。

初めて自分から告白した。一日考えて作ったメールをまた一日かけて送信して、返事を待つ間は仕事もろくに手につかなかった。晴れて付き合うことになった時、嬉しさのあまりベットの上を転げ回った。

彼と会ったことは無い。何度か会いたいとメールしたけれど、その度に忙しいからと断られた。
やり取りは専らメールとブログのコメントだけ。それでも、良かった。
彼からの言葉が、嬉しかった。


だからその日もいつもの様に、胸を弾ませてメールをクリックした。数秒後、目を瞠る事になるなんて思いもせずに。


開いた瞬間飛び込んできた言葉が理解出来なくて、何度も読んだ。読んで読んでそのうち画面が滲んできて、最後は文字の判別も出来なくなっていた。


そんな状態になりながらただ漠然と思ったのは、これは夢じゃ無いと言う事。夢なら良かった。けれど夢ならあんなにも心は痛くならないだろうし、あんなにも苦しくはならなかっただろう。
終わった、私と彼は。一度も会うこと無く声を聞くことも無くあっさりと、終わってしまったのだ。


「……はぁ」

本日何度目かも分からない溜息をついて、ケータイの画面を待受へと変える。期待はしてなかったけれどやっぱり受信メールは一件も無い。

あの日からもう一週間経った。その間変わった事は無く、私を置いていつもの日常が過ぎて行った。

ブログは、覗くのが怖くて最近は更新も滞っている。
もう閉鎖してしまおうか。きっとずっと止まったままだと思うから。

電源ボタンを長押しして、ケータイをコートのポケットに突っ込んだ。そのままじっと何もせず、時間が過ぎていく。
「あの」と声を掛けられたのはその時だ。附していた顔を上げれば、一人の青年が私を見下ろしていた。

「どうかしたんっすか?」

僅かに柳眉を曇らせでもあまり表情を変えずに、見詰めてくる。
意思の強そうな視線に射ぬかれその瞳があまりにも真っ直ぐこちらを見るから、私も逸らすことが出来なかった。
冬空の下、二人の間に刹那の沈黙が流れる。


「泣いとったんすか?」
「えっ?」

沈黙を破ったのは青年の方だった。
驚いた、涙なんてとっくに枯れ果てたと思っていた。

青年は屈んで私と同じ目線になると、すっと手をこちらへ伸ばしてきた。
一瞬何が起こったのか分からなかった。
長い指が私の目許を優しく拭っていく。その自然な仕種に思わず涙が止まった。

「あっ…えっ?」

呆然として目の前の青年を瞠ると、ふっと口を緩ませて悪戯っ子っぽく微笑んだ。
仕種や纏う雰囲気から年上の人と思ったけれど、その表情には幼さが感じられた。


ドキンと胸が高鳴る。なんて現金な自分。失恋して、さっきまでどん底まで落ち込んでいた気持ちが、もう浮上していた。



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