彼女に『Yes』と返事をして俺達は彼氏彼女になった。
なったけど結局俺は歳をごまかしたままやった。やっぱり今の関係を崩したなくて、本当の事を告げるんが怖かった。

付き合いだして暫く経った頃、彼女から『会いたい』とメールが来た。
「俺も会いたいわ」と一言漏らし、メールには『忙しいから会えないと』返事をした。
その後も何度か同じやり取りがあった。その度に心苦しく思い、姿の見えない彼女に謝罪した。



転機は突然訪れた。兄貴のパシリで行った近所の公立図書館に彼女がおった。


最初はただ似てるなと思った。ブログやメールの文面から想像しとった彼女に似ている人やなと。
正面入口から進んだ先エントランス前の広場に、その人は一人ベンチに座り本を広げとった。

「一夏!!」

それを一瞥して広場を進むと図書館の方から現れた女性が、擦れ違いざま声をあげた。耳が拾ったその単語に脊椎反射で振り向いて駆けて行く女性の後ろ姿を追う。向かう先には、ベンチに座るあの人がおって、視線を上げて女性を見とった。

「いちか……」

零れた独白が反芻されて胸に落ちる。
同じ名前。心がざわついた。
彼女は大阪に居ると言っとった。
図書館で働いとって、本や映画、邦楽洋楽幅広く好きで、ほぼ毎日飲む程好きなドリンクがあって。
メールで彼女が話していた事が一つ一つ、浮かんでくる。

「またそれ飲んでんの?飽きひん?」
「いーでしょ、好きなんだから」

『いちか』と呼ばれたあの女の人と、俺の知っとる彼女が重なる。
漠然と思い描いていた存在が今まさに、形を成してそこに居た。





「あの時ここで初めて貴女を見て、俺はこのままじゃ駄目だと思ったんです」


現実の彼女を知って、自分の本当の気持ちに気付いた。そして、愚かさにも。

すべて話して、もう一度最初から。今度は嘘の俺じゃなくて、本当の俺と……。
都合の良い事は分かっとる。嫌われるかもしらん。
そやけどもうこれ以上、彼女に嘘を付き続けたない。

あんな形だったけど会ってしまった。
会ったら、今までの分衝動も大きくもう止められなかった。




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