「あの時ここで初めて貴女を見て、俺はこのままじゃ駄目だと思ったんです」

一つ一つ丁寧に話してくれた財前君は、その一言を最後に言葉を止めた。
俯いているから表情は分からないけれど、何となく思い詰めてるのが分かった。

財前君の口から発せられた言葉に最初こそ驚いたものの、私は意外と冷静にその話を受け止めている。

私がネットで出会い付き合っていたのは財前君だった。彼は普段から歳をごまかしてやり取りしていて、今回もそうしていたそうだ。
その理由を聞けば財前君がとった行動も頷けた。ネットで様々な人と繋がれる分、リスクも有る。そこをちゃんと理解していなかった私も軽率だったと思う。
そして、それを私に黙っていた事は、最初に謝ってくれた。「ごめんなさい」と言った時の財前君の顔は、辛そうに歪められていた。

「一つ聞いても良い?」

二人の間に流れた沈黙を破って問うと、財前君は少し驚いた表情を見せながらこちらを向いた。

「……はい」
「どうして私達は別れる事になったの?」

私を見詰める瞳が揺れる。
本当の事を告白するなら、別れなくても出来た筈だ。でも財前君はそうしなかった。彼を責めるわけじゃないけれど、訳を聞きたかった。

「……最初からやり直したかった。一夏さんとは最初から、今度は本当の俺と始めたかった」

財前君は少し逡巡した後、口を開いた。




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