俺の想いびとは顔はきれいだが、頭がよわい。
 形のいい口からひらがなだらけのことばがつぎからつぎへと溢れてくる。まきはひとと話すのがだいすきだ。
 だいすき。すき。すきだなど、きもちを伝える気なんてこれっぽっちもなかったというのに。まあ、伝えない、ときめたのは、いまの関係を壊したくない、だとか、あいてをこまらせたくない、とかいったかわいらしい理由からではなかった。ただ、おまえはおかしいと指をさされるのがいやだったからだ。でも、それは結果的にお互いにはいいことだった。まさの一番ちかくにいる自分に俺は満足していた。
 それなのになんでまた。
 いまはうまい具合に話をそらせたみたいでも、いつまでもそうはいかないだろう。
 頭のよわいまきさんは、ひとと話すのがだいすきだ。とくに「おもろい」話が、どんな内容だろうとウケるであろう話が。
 すこし前に、まさはクラスのすこし浮いた存在であった女の子に告白された。翌日、まさはそのことを嬉嬉としてクラスメイトに話した。クラスメイトはそれを笑い話ととった。まさにとっては自慢話に近いものだったみたいだが、学生なんてそんなものだ。女の子は学校にこなくなった。
 女の子がどんどんと不登校に近づいていくなかで、まさはようやく自分が原因ではないかと思いいたった。あわてて先生に住所をきき、彼女にあやまりにむかったまさに引きずられるように俺はついていった。泣きそうになりながらあやまるまさに、彼女はほとんど泣いているような笑顔で、ありがとう、とだけいった。
 頭のよわい俺の想いびとは、残酷な人間だった。

「やっちゃん、おれはらへったから、もう帰んねー」

 おばちゃん、おじゃましましたー、という元気のいい声をききながら俺はクッションにつっぷした。まあ叶うなんておもっちゃいなかったけど結局ノーリアクションだったし、もうあしたから学校がどうだとか、クラスメイトの反応がこうだとか、関係ないくらい、

「つらいわー」

 ああ、別に冗談やってごまかせばよかったんか。いまさら、思いつくも、どうやら俺のきもちは隠すことはできても、冗談ではなかったらしい。

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