「まさがすきやよ、だから」
それがどうした、ほとんどキレたように怒鳴ってから、しまったと口をおさえても、もう遅い。やっちまった。これでもかというほどに悪態をついてうやむやにしてやろうと思ったけど、なにかににぎられているように咽喉がつまってなにもでなかった。おおきく舌打ちする。 「え、なにそれ、ほんまなん」 学校帰りにマンションの自分ちのひとつ上にある俺の家に押しいってきたと思ったら、俺の部屋の中のまさの定位置の無印のまるいクッションにうずまり、なーなーやっちゃんすきなひとおらんのなーなー、とあまりにもしつこくきいてきたので、俺がキレた。最低や。 「やっちゃん、おれのことすきなん」 ききかえすなやどあほ。 目をまるまるさせて、おもしろいものをみつけたとでもいわない顔にまた舌打ちがでた。ほんまあほ、こいつほんまあほや。 「そもそもなんでそんなこときいてきよったん」 「おれがすきなひとおったことない、いったら、クラスのやつに笑われてん」 やから、やっちゃんはどうなんかなあ思て、そういうまさに俺の告白はもう脳味噌から削除されたんじゃないかと希望的観測をたてる。まあ、こいつがこんなに「おもしろいこと」を忘れるわけがないだろうが。 てか、高二にもなって初恋まだとか、思わず鼻から息がもれた。まあ、ながらく同性の幼なじみに恋しちゃってる俺に笑えたことじゃないが。 「やっちゃんも笑いよる。ひどいわー」 きれいな顔をくしゃりと崩す。でも、きれいな顔は、きれいなままで。あ、なんかこんな歌あったな。 prev | list | next |