ラナンキュラスに血の雨を(セブリリ)
身体を擦(さす)れば、また君の温もりが蘇ると思ったんだ。
「リリー…、リリー…ッ!!」
目を醒ましてよ、ねぇ。
「ぅ…っあ…、」
ダメだ。 泣くな。 泣いてはダメだ。
セブルスは必死にリリーの手の甲を擦り、温もりを取り戻そうとしていた。
ぱたぱたと、セブルスの涙がリリーの青白くなってしまった頬を濡らす。
――…嗚呼、涙が彼女の熱を奪っていってしまう。
「ダメだ、リリー…、そんなの僕は嫌だ…」
僕を、置いていかないで。
セブルスは自身の涙で濡れてしまったリリーの頬を服で拭い、そっと首筋に指を這わせた。
欲しかった脈動は、伝わらなかった。
「あ……ぁああああっっ!!」
死のう。 彼女の居ない世界で生きるくらいなら、死んだ方がマシだ。
セブルスは、震える手で杖先を喉元に当てた。
呪文を唱えようと口を開いた瞬間、背後から聞こえてきた赤子の声によって、その後の行為は阻まれてしまった。
ゆっくりと、セブルスは後ろを振り向く。
壁際に置かれたベビーベッドの冊の中から、小さな手がこちらへ伸びていた。
「あー…」
母親が殺されたという事も解らず、豊かな赤い髪を床に散らせ四肢を投げ出し倒れている彼女に向かって、抱っこをねだるように何度も小さな手を、一生懸命伸ばしていた。
カッと、雷の光が、崩壊した部屋に差し込んだ。
赤子の顔が、ハッキリと映し出される。
そしてその時セブルスは、その子は彼女に手を伸ばしているのでは無いと知った。
赤子は、自分を真っ直ぐ見つめ、すがるように手を伸ばしていた。
彼女と同じ、緑色の瞳で。
ラナンキュラスに血の雨を (頬を伝うのは、雨か涙か)
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