全機能が停止する日(セブリリ)


「わたし、2月29日に生まれたかったわ」

川の畔の大きな木の下に座って、リリーちゃんは呟きました。
リリーちゃんの誕生日からおよそ1ヶ月。まだまだお家の外は寒く、雪がふわりふわりと舞っています。
そんな中、捨ててあった雑誌を仲良くお尻の下に敷いて、リリーちゃんとセブルス君は、ぼぅっと川の向こう側を眺めていました。

「どうして??」

鼻の頭が少し赤くなっているセブルス君は、リリーちゃんの言った事が気になって仕方がありません。

4年に1度の誕生日だなんて。
ただでさえ、自身の誕生日を毎年祝ってくれているのはリリーくらいだけなのに、4年に1度となると…

そう思ったからです。


「だって、4年に1度しか誕生日が来ないんでしょう?」
「うん」
「歳をとるのが4年に1度だから、ゆっくり大人になれるじゃない。いつまでもこうやってセブと遊べるし、何より、ずっと一緒にいられるから」

ふふっと、リリーちゃんはほっぺを薄桃色に染めて微笑みました。
それにあわせて、白い息がほわりと出ては消えていきます。
そんなリリーちゃんの赤い髪と白い景色のコントラストに、セブルス君は思わず見とれました。
アーモンド型の緑の目は笑った事で閉じられ、長いまつげは伏せられています。

リリーちゃんの美しい横顔に、セブルス君の幼い心臓はドクドクと暴れ回ります。



「ぼくは…、」

かじかむ手でマフラーを握りしめ、セブルス君は口を開きました。
いつの間にか、セブルス君は鼻の頭だけでなく、ほっぺや耳までも赤くなっています。

「2月29日に生まれなくてよかった…」

きょとんと首を傾げるリリーちゃんの大きな目が、セブルス君に疑問を投げかけています。


「だって、早く大人になって、強くなって、リリーを守りたい…から……」

最後の方は、ごにょごにょと消えるような声になってしまいました。
それでも、すぐ横に居るリリーちゃんには聞こえたようで、嬉しそうに顔をほころばせ、セブルス君をガバリと抱きしめました。
勢い余って雪の中に倒れ込み、二人がびしょ濡れになって帰るのはそのあとのこと。





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寒い…――

あれから月日が経ち、セブルス君は大人になりました。
大人になったリリーちゃんはもう、セブルス君の隣には居ません。
そして、今。

大人になったセブルス君―もとい、セブルス・スネイプは、自身の血で真っ赤に染まった床に倒れています。

顔からは血の気が失せ、そして、激しい寒気に襲われていました。
誰かの、足音。
焦点の合わない目が、足音の正体を捉えました。


嗚呼、最期の仕事か……


「これを…取れ……、これを…」

セブルスの頬を伝う銀色の滴は、青年となったハリーによって丁寧に汲み取られました。
止血をしようとセブルスの首元に宛てられたハリーの手は、溢れ出る血によって真っ赤に染められています。


「僕を…見て…くれ……」


もう一度。

あれ以来、向けてくれなくなった、僕を映さなくなった、その瞳を。
君を守る事が出来なかった、僕を。


もう一度、僕に…――


そうしてかち合った視線。

緑の、彼女と同じ瞳。

「リリーと同じ目を、している…」

ハリーの緑の瞳が、揺らいだ気がしました。



セブルスの身体の震えが、止まりました。

やっと、漸く、彼女に逢えた。

ほんとうはハリーの瞳なのに。

しかし、セブルスにはもう、正確な判断をする事はおろか、意識をハッキリと保つ事すらままならなかったのです。

セブルスは、嬉しさのあまり顔を綻ばせます。
しかし、何十年も笑う事を忘れてしまい強張ってしまった表情筋は、頬を僅かに緩めさせるだけでした。


また、君と…―――



そして、寒気が治まり、心が暖かくなったところでセブルスの意識は途切れました。






全機能が停止する日
(5月2日、セブルス君はリリーちゃんの瞳に見守られながら、)





 










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