神様、いまだけ(セブリリ)
今年は結局、彼は祝ってくれなかった。
グリフィンドールの談話室で行われた、誕生日パーティー。 凄く嬉しかったのに、何故かとても悲しかった。 去年まで隣に居てくれ、一番に祝ってくれた彼は、もう居ない。
「リリー…今夜は君の部屋で僕と共に一夜を…ごふぁっ!!」
下らない事を言うジェームズの鳩尾を無言で殴り、リリーは自室へ向かった。
「ハァ…ばっかみたい……」
自分から彼の元を離れて行った癖に、何を今更。
「セブ……」
ベッドにのろのろと潜り込み、溢れ出てしまいそうな涙を必死で堪えたが、そんな彼女の努力を無駄にするかのように、涙は目尻を伝って枕カバーに染みを付けた。
「ぅ…、セブ…せぶぅ…っ」
リリーはゆっくりと枕に顔を埋めると、声を殺して泣いた。 これから二度と、彼が祝ってくれないと思うと、寂しくて涙が自然と溢れてくる。 もう、涙を止めようなんて思わなかった。 暫くしてリリーは泣き疲れたのか、そのまま眠ってしまった。
「ん…」
どれくらい経ったのだろう。 リリーは淡い銀色の光によって、ふと目を覚ました。
目元も頬も、涙のせいでカピカピになっていたが、それを無視して銀色の光源の方へと、顔を向けた。
「あ……、」
ベッドの横に静かに佇んでいたのは、しなやかな身体をした銀色の牝鹿だった。 それはリリーが起きた事を知ると、ピクピクと耳を動かした。
「う、そ……」
リリーは、この牝鹿が誰によって作られたのか、すぐに分かった。 けれどもその時、決してその名前を口にしなかったのは、それをしてしまえばこの淡く優しい光を放つ牝鹿が、消えてしまうと感じたから。
乾いた筈の頬に、熱を持った雫が再び流れた。
牝鹿はリリーに静かに擦り寄ると、耳を伏せてそっと口元でその雫を拭う仕草をした。
「セ……ブ…、」
震える唇でその名を言い、指先が銀色の身体に触れた瞬間、牝鹿は霧のように消え、代わりにゆっくりと銀色の光が再集合すると、伸ばしたままだったリリーの指先に、一輪の百合が形成された。
「セ…」
それはリリーの指先が触れる前に拡散し、目の前を淡い銀で染めると、二度と現れることは無かった。
カチリと、時計が次の日付を刻んだ。
窓の外では、雪が静かに降り続けていた。
神様、いまだけ (今だけは、彼を想っても良いですか?)
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