主役の居ない誕生日 2(シリウス)
*「主役の居ない誕生日」の後…
タッタッタッタッ…
その数刻後、セブルスが現れた所と同じ場所に、大きな黒い犬が百合の花束をくわえて現れた。
「ハッハッハッ…」
犬が吐く息が、静かに白く染まる。 犬は墓地の前で立ち止まり、キョロキョロと辺りを見回して誰も居ない事を確認すると、その姿を人間へと変えた。
「寒い……」
口から花束を外すと、元黒犬―シリウス・ブラック―は身震いした。
「何も、変わっていない……」
まるで、この場所だけ時が止まってしまったかのように…。
「早くしないと誰かに見付かるな…」
墓地に足を踏み入れ、目的の墓石を見て、驚く。
「あいつ…来てたのか……」
残留臭は、確かに誰かが先程まで此処に来ていたという事を示していた。
鼻腔を微かにくすぐる、薬品と薬草の香り。
「スニベリーの奴…」
自分が訪れる前に、セブルスは必ず来ていた。 ハロウィンの時だって、そうだった。
別に、シリウスはセブルスがこの地を訪れる事をとやかく言おうとは思ってはいない。 ただ、何故彼がここまでしているのかが、気になっただけだ。
「あいつもマメな奴だな…」
両手で花束を持ち直し、横たわる一輪の百合のすぐ傍に、そっと置いた。
「Happy birthday,リリー。主役の居ない誕生日は、今年で14回目だ…」
アズカバンを出て1年が過ぎた。 孤独から解放され、今はハリー達が心の支えになっていた。 誰かが、自分を信じてくれている。 それだけで、生きる気力が溢れてくる。
「ハリーは元気だ。外見はジェームズそっくりなのに、瞳は…リリー、お前の目そのものだ」 苦笑いをしながら、シリウスは墓石に向かって言った。
ガサッ 何かが叢で動く音がした。
シリウスはハッとして、顔を上げる。
「…もう行かないと。また近い内に来る。じゃあな」
再び黒い犬に変身すると、微かに雪を散らしながら、元来た場所へと走り去って行った。
主役の居ない誕生日 (そちらで元気に過ごしていますか?)
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