幸福はいつも傍らに(セブリリ)
クリスマスなんて、僕にとってはくだらなく、最低な行事でしかなかった。 何故なら僕は、ホグワーツを離れ、大嫌いな"家"に帰らなければならなかったから。
ふと目が覚めると、身体が悲鳴を上げた。 時計を見る。 まだ夜中の2時過ぎだ。 耳を澄ましたが、おそらく両親は寝ているのだろう、家の中は静まり返っていた。
毎日のように繰り返される父親からの暴力によって至る所を痛めつけられた僕の身体は、寒さもあってか酷く痛みを感じた。 起き上がって薄い毛布を身に纏い、そっとカーテンを開ける。 窓の外には、銀色の世界が広がっていた。 街灯がぽつぽつとあるだけの暗い外の世界は、しんと耳が痛くなる程静かで、動く影は一つも無かった。
…いや、あった。
空を、何かが飛んでいる。 窓ガラスが自身の息で白く曇るのも構わず、僕はそれに顔を引っ付け、目を凝らした。
驚いた事に、その影はこちらに向かって来るようだった。
何だ?
そうこうしている間にも、影はどんどん近付いて来て、大きくなる。
そして、
「リ…リリーッッ!?!?」
影の正体は、なんとリリーだったのだ!! 僕はなるべく音を立てないように、けれども急いで窓を開けた。
「Merry Christmas、セブ!!」
目の前で、箒に乗ってふわふわと浮かぶ彼女は、暖かく微笑んで僕にそう言った。
「何やって…っ!?!?」
突っ込み所が多くて、僕は何処から言えばいいのか分からなくなったが、今日はクリスマス。 やっとの事で小言を飲み込んだ。
彼女は、暖かそうなファーが付いたコートを着て、ニットの帽子を被っていた。
けれども彼女が体調を崩すといけないので、僕は開けた窓から外気温とそこまで変わらない部屋に招き入れた。 …まぁ、風がしのげるだけでも違うと願いたいが。
「Merry Christmas、セブ」 「…Merry Christmas、リリー」
箒から床に降りた彼女はもう一度そう言いながら、丁寧にラッピングされた細長い箱を僕に手渡した。
「本当はね、セブが寝ている間にこっそり忍び込んで、枕元に置いていこうと思っていたの。でも、来てみてビックリ!!だって、あなたったら起きてるんですもの!!」
「ありがとう…。開けてみても…?」 「えぇ」
リボンを解き、包装紙を破かないよう慎重に開け、包まれていた箱の蓋を開けた。
「あっ」
その動作の一部始終をそわそわと眺めていた彼女は、僕の驚く表情を見て満面の笑みを浮かべた。
「セブ、新しい栞が欲しいって言ってたでしょ?だから、作ってみたの!」
藍色の落ち着いた生地に押し花が施され、スリザリンの色である緑色のリボンが付けられていた。
押し花にされた、半透明で白く輝く小さな花。
「この花はね、スノーフロストっていうの。花言葉は、『あなたの幸せを願って』よ」
そっとリリーから抱きしめられた。 彼女の体温が、僕の心と身体を癒していく。
「私は、いつもあなたの幸せを願っているわ、セブ」
嗚呼、暖かい。
「僕も、リリーの幸せを願ってる」
誰よりも。
「…じゃあ、もう帰らなくちゃ」
ふわりと離れていく、彼女の体温。
「ああ…。君へのプレゼントは、家に送っているから…」
「まぁ!!楽しみにしているわ、セブ!」
窓から出て箒に跨がった彼女は、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「プレゼントありがとう、リリー。大切に使わせてもらうよ。良いクリスマスを」 「気に入ってくれたようで何よりだわ。良いクリスマスを、セブ」
そう言うと、彼女は来た時と同じようにふわふわと空を飛んで帰って行った。
クリスマスも、悪くはない。
だんだん小さくなる彼女の影を見つめながら、僕はそう思った。
幸福はいつも傍らに
(君が傍に居てくれるだけで、僕には最高のプレゼント)
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