魔法の呪文を知らないこども(セブルス)
あるところに、漆黒の髪と闇色の瞳を持った男の子が居ました。
その男の子の心は、その歳に似合わない程深い闇を抱えており、そして、幾重もの扉が閉じられていました。
男の子は、毎日、毎日、どうか何事も無く今日一日を過ごせますように、と祈っていました。 けれどもその祈りを神様が聞いてくれたことは、一度もありません。 毎日起こる、両親の激しい口論。 部屋の隅で縮こまり、その小さな身体を恐怖に震わせながら、時が過ぎるのを待っていました。 父親は、そんな男の子の姿が気に食わなかったのか、酒臭い息で意味不明な言葉を彼に吐き捨て、殴り付けました。
男の子の小さな身体はうす汚れた床を跳ね、たたき付けられ、ボロボロになっていきました。 その度に、心の中に新しく扉が生まれ、バタンと大きな音を立てて閉じられ、鎖でがんじがらめにされていくのです。
こんな酷い仕打ちを受ければ、普通の人なら死にたい、と思うでしょう。 けれどもこの男の子は違いました。 生きたいという意志が、彼にはあったのです。 真っ暗な所にある心を、仄かに照らしてくれる光。
「リ、リー…」
男の子は一筋の涙を流して、とうとう気を失ってしまいました。
魔法の呪文を知らないこども
("愛されること"を知らなくても、"愛すること"は知っていた)
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