知らず知らずの内に、(ジェリリ、セブ)


リリーが、ポッターと付き合い始めた。

何故リリーが、あの傲慢なポッターなんかと付き合うのか。
僕は理解出来なかった。











「やぁ僕の愛しのリリー、今日も美しいねっ!!」
「どうも」
「ねぇリリー、僕は君を愛してる!!僕と付き合ってよ!!」
「いいわよ」
「…えっ!?」
「だから、いいわよって言ってるの。聞こえなかったかしら??」

何秒かの静けさの後、くしゃくしゃの黒い髪に眼鏡をかけたグリフィンドール男子が、ついに動き出した。

「リ…リリーが…、リリーが僕の告白をOKした…っ!!シリウスぅぅうッッ!!リーマァァアスッッ!!ピータァァアッッ!!」

歓喜の声を上げて(否、叫んで)友の名を呼びながら何処かへ駆けていく彼の背を見ながら、リリーはため息をついた。

「確かに、好きだけど…」


幼なじみから言われた『穢れた血』という侮辱の言葉。
ショックで冷静さを欠いていた私は、彼がどんな思いでその言葉を発したかを考えずに、自分のベッドに駆け込み泣いた。
冷静になってその真意に気付いた時には、もう歯車は噛み合わなくなってしまっていた。

自分のプライドと、彼の本当の気持ち。天秤にかけられたそれは、彼の心の方が重たかった筈なのに、自分の中にある"負けず嫌い"が自分のプライドの方によじ登り、結果を逆転させた。

彼がグリフィンドール寮の前で赦しを願った時、「赦したい」という気持ちがあったのに、彼の言葉の真意をすぐに見抜けなかった自分が悔しくて、でもそんな自分のプライドを守りたくて、彼を赦せなかった。

結局、互いに傷付け合う結果に。


「不器用って…私も同じね…」
「何が?」
「きゃあっ!?」

いつの間に戻って来たのか、ジェームズが横に居た。
ビックリして、思わず悲鳴を上げた私(ジェームズは「そんなリリーも可愛いなぁ」とニコニコしながら言った)。

「お…驚かさないでよ…」
「ごめんごめん」

へらりと笑うジェームズ。

もしかしたら、今が最後のチャンスかもしれない。

彼を…セブを、少しでも救えるのなら。



「ねぇ、ポッ……ジェームズ」
「何だいリリー?」
「一つ、お願いを聞いてくれないかしら?」
「あぁ、リリーの頼みなら何でも聞くさ!!」



「セブ…スネイプを虐めるのはもう止めて。彼に、関わらないで」
「え…でも…」
「ジェームズ、お願い」

ポッターの言葉を遮るように、私は畳み掛けた。

う〜ん…、と髪の毛をクシャクシャと掻きながら、ジェームズは悩む。


「…努力は、してみるよ。それじゃダメかい??」

欲を言えば、Noだ。
でも、これ以上の良い返事は望めそうにない。


「…いいわよ」

約束を取り付けることにようやく成功した私は、心の中でホッとため息をついた。

「ていうかさ、リリー」

彼の纏う空気の温度が、変わった。
探るような、冷たい視線。
突如変わった雰囲気に、私は努めて冷静に対応する。
ここで失敗は許されない。

「何?」

「まさか、これが目的でOKしたなんて言わないよね??」

ほらきた。
なんて勘の良い奴。


「さあ?どうかしらね」


肯定も否定もせずただニコリと笑う私に、彼は呆れたようにため息をついた。

「まったく…。君こそスリザリンに組分けされるべき女神だと僕は思うよ。お手上げだ」

相変わらず君は計算高いね…と呟きながら、彼は両肩を竦めた。


「あら、そんな私に惚れたのは何処の誰かしら??」

「他でもない、この僕さ」


その言葉が発されると同時に、二つの影が重なった。







リリーが、ポッターと付き合い始めた。

何故リリーが、あの傲慢なポッターなんかと付き合うのか。
僕は理解出来なかった。

ただ一つ言えるのは、彼女が付き合い始めて以来、僕に対する悪戯の回数が以前よりも減ったという事だった。



僕は知らない。

知らず知らずの内に、彼女から護られていたという事を。











 










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