逃げられない(紅藍+α)




「るびぃー…」

「さ、サファイア!?」

今、あたしは彼の家の前にいます。
…ずぶ濡れで。


簡単に今の状況に至るまでを説明すると…
今日は降水確率10%で、雨が降る訳無いと思って何も持たずに外に出掛けたのが失敗だった。
森でちゃもと組み手をしている最中、突然のにわか雨に襲われてしまい、急いで炎タイプである、ちゃもをボールに戻した所まではいいものの…勿論、何も持ってなかったあたしはずぶ濡れ。
しかも、仕方なく家に帰ると、珍しく鍵が閉まっているというWパンチ。鍵なんてあたしが持って出てる訳無いじゃない、父ちゃんの馬鹿!!
と、いくら父ちゃんを罵った所で鍵が開くわけでもなく、ビショビショのまま家の前にいたら、いくらあたしでも風邪をひきかねない。
仕方なく恥をしのんで隣の彼の家に……で今に至るって訳。


「な、なんでびしょ濡れで僕の家に来るのさ!」

珍しく慌ててる彼こと、ルビー。綺麗な紅い瞳をもつ彼は、あたしに向かって言葉を発した。
今にも「美しくない!」とか「汚れるだろ!?」とか言い出しそうだな…と思いつつ、でも、あたしはそんな彼を見る事も出来ずに、目線を下に向けたまま説明する。

「雨降って…傘とか無くて…そんで、家の鍵が閉まってた…ったい………クシュン!」

あ、くしゃみ出ちゃった。
これだから、君は!やっぱり野生児じゃないか!、なんて罵声にも似た説教を喰らうのではないかと身構える。しかし、彼は何も言わず、ため息を1つ。
恐る恐るルビーを見上げると……彼はいなくなっていた。

(…え?)

何でいないの?飽きられた?怒って帰っちゃった??
そりゃあ…ずぶ濡れで来たあたしが悪いかもしれないけど、あんまりじゃない?やっぱ、ルビーに嫌われたんじゃないか、とか急な展開に、色々悪い考えしか浮かばなくて泣きそうになる。

でもこのまま突っ立ってる訳にもいかないだろうし(何だか寒気がするような気がしてきた。)、嫌われたなら尚更いるわけにはいかない。

半泣きで帰ろうとした時…


バサッ


頭から、バスタオルをかけられた。そしてワシャワシャと強引に頭を拭かれる。
いきなりすぎて、あたしの頭は処理が追い付いていない、けど、犯人は絶対……

「る、び、ぃ?」

「サファイア何泣いてるの?もしかして、そのまま帰るつもりだった?」

ほら、家入りなよ。どうせ僕しかいないし。と、彼はバスタオルごと私を自分の家に引っ張り込んだため、あたしは半分倒れ込む形で彼の家にお邪魔することとなった。

「ほら、ちゃんと拭きなよ。風邪ひいちゃうから。あ、後…僕ので悪い……けど、服貸すから着替えなよ。」

濡れた服だと気持ち悪いでしょ?と、ルビーは彼らしく綺麗に畳まれた布地を差し出してきた。それを、怖ず怖ずと受けとる。

「僕、自分の部屋にいるから、着替えたら上がって来て?サファイア、どうせ家に帰れないんでしょ?」

「う、うん……」

小さく返事をすると、ルビーは、ちゃんと拭くんだよ、と言いつつ部屋を出ていった。
あ、ありがとうって言いそびれちゃった…後で言わなきゃ。

とりあえず、濡れた髪と身体をバスタオルで拭いて、これまた濡れた服を着替える。ルビーの服はやっぱり男女の差なのか、大きくて、少し…いや、かなりブカッっとしているけど…
これ、ルビーの服なんだよね。ルビーの匂いがする…なんて考えたり、
自分が今着ている服をルビーが着ている所を想像したりしてしまい、顔が赤くなってしかたがない。
熱くなった顔をブンブンと振って、頬を軽く引っ張りながら、あたしって乙女だな、と自分を笑う。
とりあえず、着替えたし、ルビーの部屋に行こう。待たせても悪い。


「ルビー?」

彼の部屋の前で、名前を呼ぶ。

「入っていいよ。」

「お、おじゃまします…」

返事が返って来たので、おずおず部屋に入る。
几帳面で綺麗好きな彼の部屋は、いつも、本当に男なのか?と疑いたくなるほど綺麗に整理整頓されている(まぁ、正真正銘の男なんだけど!)。

「あ、あの…服とバスタオル……ありがとうったい。」

先程言いそびれてしまった事を何だか妙に恥ずかしくなって俯き加減に言う。

「いや…気にしなくていいよ?…やっぱり服、大きかったか。」

と、彼はちょっと目線を逸らして言った。

服、と聞くと、さっき1人で乙女ってた事を思い出す。
やば、顔、赤い…かも。

「サファイア大丈夫?顔、赤いけど…」

ルビーがふと、こっちをちら見して言うもんだから、

「い、いや!な、なんともなかとよ??」

ギクッとして、つい、どもってしまった。こいつ、あたしの心の中が読めてるんじゃないのか!?

エスパー…?

「じゃあさ…」

赤くなっているであろう熱を持つ頬を、両手で押さえながら、声のした方を見る。
と、視線が彼の紅い瞳とかちあった。瞳に映るあたしの顔はやっぱり赤い。

彼はニコ…と微笑みながら(…凄くかっこいいのがずるいと思う。)、両手をあたしの方に差し出して、

「こっちおいで?」
 










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