謝罪と後悔(カゴメタウンにて)


これは、俺がキュレムを捕まえた後の話…












「おまちどおさま!お預かりしたポケモンはみんな元気になりましたよ!またのご利用をお待ちしてます!」

ジョーイさんからボールを受け取り、パソコンのボックスからダニエルを出して外に出る。


俺はジャイアントホールでキュレムを捕まえた後、猛ダッシュでポケモンセンターに行き、手持ちを全て回復させた。

ある事を実行する為に。
俺の親友のような悲しい気持ちを、キュレムに味わわせない為に。


「トウヤ、何故私をパソコンから出したんだ?」

ボールから出したダニエルは不思議そうに尋ねる。

「今日はお前に協力してもらわないといけないかもしれないからね」

歩きながら俺は答えた。
ダニエルは俺の横を這う。

「協力?何をするんだ?」
「とあるポケモンが、この街から迫害を受けていた。…っつっても、勝手に住民が見た目だけで判断して怖がって、そいつに危害を加えてたらしいんだけど…」

そう言って横を見ると、ダニエルは黄金の目を更に鋭くさせ、怒ったのか、尻尾をバンバンと石畳に打ち付けていた。

「許さん…っ!!」
「ちょっと…、落ち着けって!!」
「私達の仲間が迫害されていることを聞いて、落ち着いていられるかっ!!」

「まぁ待て。俺だって怒り爆発しそうなのを無理矢理押さえてる。こういう時こそ冷静にならなくてどうする?その仲間を救う為に、お前の力が必要なんだよ」
「む…。私としたことが、怒りで我を失いそうになっていた…」

プライドが高いダニエルは、すぐに冷静さを取り戻す。

「具体的に、どうやって迫害を止めさせるんだ?」

「あぁ。まず、レオンが"なかまづくり"を使って、街の住民をこのポケモンセンター前に集める。そして、俺が少し離れた所でそのポケモンを出す」
「そのポケモンは…街の人が噂していた、キュレムとかいう奴か?」

流石ダニエル。話が早い。

「あぁ、そうだ。俺がキュレムを出した時に、住民達は俺らを危険とみなして追い出そうと、こっちに向かってくるかもしれない。その時の為に、お前の"つるのむち"を俺らと住民の間に張っていて欲しいんだ」

そう、これは一か八かの勝負だ。
失敗すれば、俺達はこの街に入れなくなるかもしれない。

「承知した」

ダニエルは、真剣な顔で頷いた。


****************************

「さてと…。レオン、頼んだよ」

レオンをボールから出し、俺は言った。

「了〜解〜♪いっちょ張り切っちゃおっかなぁ♪よろしくね、エル兄!」

「あぁ」

準備は万端。
あとは運のみ。

俺は深呼吸をして、指示を出した。

「レオン!"なかまづくり"!!」


ふわぁぁぁぁぁんっ!!



街全体に、不思議な波動が広がる。

すると、街の住民がぞろぞろと俺らのいるポケモンセンター前に集まってきた。

「誰かと思えば…なんだ、トウヤじゃないか。今日はどうしたんだ?」

頻繁にここに来る為、街の住民全員と顔見知りである。


「今日は、皆に見てもらいたいものがあるんだ。そして、それも兼ねて1つお願いも聞いて欲しい。その為にはダニエルに、俺と皆の間に"つるのむち"を張らなければならない。張ってもいいか?」

一応、承諾を得なければ。
勝手に張ると失礼だからな。

「なんだ、そんな事か。いいぜ♪」

他の住民も口々に、いいよ、と言った。

「ありがとう。ただし、これを見ても決してそこを動かないで欲しい!!…ダニエル、"つるのむち"」
「分かった」

ヒュンッという音と共に、俺と住民達の間に線が引かれた。

「出ておいで、キュレム」


ズンッ!と音を立ててキュレムは石畳に着地する。


「き…きゃぁぁぁっ!!!!」
女性が、悲鳴を上げた。

「く…!何故このポケモンがいるんだ!!」
「どういう事だ、トウヤ!!俺達をこのポケモンに喰わせる気か!?」

次々と俺に罵声を浴びせる住民達。

「皆、落ち着いてくれ!!俺は誤解を解きたいだけなんだ!!」


必死で訴えるが、住民は怒りと恐怖で混乱し、聞く耳を持たなかった。

「私の主を悪く言うな!!」

グルルル…とキュレムまで低く唸りだした。


「クソッ!!…レオン、"いやしのはどう"!!」

「ラジャー♪」


ほわぁぁん、と心地よい波動が広がる。

辺りが、静かになった。

「皆、お願いだ、俺の話を聞いてくれ!!」

不満そうな顔をしたまま、全員頷いた。

「皆、このポケモン…キュレムの事を知ってるよな?」

住民はコクン、と無言で頷く。

「そして、このポケモンを"人を喰らう化け物"と言った…間違いないよな?」
「けれど…!それは昔から言われていた事だし…っ!!あたしらのせいじゃ…」

そう言った金髪の若い女性を、ダニエルが睨み付けて黙らせる。

「俺が何でここまで言うか、疑問に思う人も居るかもしれない」

確かにそうだ、と住民はざわめく。

「俺が一年前…ポケモンリーグで優勝する前に出会った、大切な親友。そいつは俺らと同じ人間にも関わらず、実の父親から"バケモノ"呼ばわりされたんだ」

「え…?」

全員がその言葉に、凍り付いた。

「信じられないと思うかもしれないけれど、事実なんだ」

「…」

「俺はキュレムに初めて会った時に、そいつに似ていると思った。だから…、だからこそ、コイツを苦しみから解放する為なら!"化け物なんかじゃない"と誤解を解くことができるのなら!!…この街に俺が出入り禁止になってもいい、だから…っ!!」

"サヨナラ"と寂しい笑顔を残して去った、親友と同じ気持ちを、もう誰にもして欲しくなかった。


涙が、頬を伝った。

自分の無力さを改めて実感してしまった為か、それとも、悔しさからか。

「だから…っ、お願いだ、もうキュレムのことを、昔話であっても悪く言うのはよしてくれ!!見た目でこいつを判断しないでくれ…っ!!こいつは、人を喰ったコトなんて一度も無いんだ!!頼む!!」

俺は帽子を取り、頭を深く下げてそう言った。
涙は止まってくれず、石畳に次々と染みを作っていく。

「コイツは、バケモノなんかじゃないんだ…」


「トウヤ…」
「主…」

ダニエルとキュレムが、呆然としながら言った。



「トウヤ、じゃったかの?」

この声は…昔話を聞かせてくれたお婆さんだ。

「どうか、頭を上げて下さらんか」

「はい…」

俺は頭を上げて、真っすぐお婆さんを見る。


「お主の気持ち、よぉく伝わった。お主の言う通り、見た目だけで勝手な解釈をして、誤解を招いたわしらが悪かった…。この歳になっても、そのことに気が付かんかった自分が恥ずかしいわぃ…」

お婆さんは静かに言った。
目には、涙が溜まっていた。

「キュレムや、わしらの先祖の時代からお前に大変酷い事をしてしまった。申し訳ない…」キュレムは静かにお婆さんの話を聞いている。

「今までのことを許せなどという我が儘は、思っておらん。自分らの行いを後悔するばかりじゃ…。じゃが、わしらの謝罪を、どうか受けて欲しい…」

そう言うと、お婆さんは住民に頭を下げるように指示する。


全員が、涙を浮かべた目でキュレムを見る。

ダニエルは"つるのむち"をやめた。


「ごめんなさい…」
「…申し訳なかった」
「すまない…」

住民達は口々にそう言い、頭を一斉に深く下げた。


「もう、よい…」

静かにキュレムが言った。

「皆、頭を上げてくれ…。キュレムは、いいと言っている…」

皆は泣きながら、ゆっくりと顔を上げた。

「もう、バケモノ扱いしないと約束してくれないか…?」

「もちろん!!」
「あぁ!!」
「お前の気持ちは十分伝わったからな!!」

住民は真剣な顔で口々にそう答えた。

「皆…ありがとう!!!!」

俺は、心から感謝を述べた。


「ねぇ、お兄ちゃん」

そう言って近寄ってきたのは、小さな男の子。

「ん?何だい??」
「このポケモンさんに、さわってもいい?」

「キュレムにかい?」
「うん!!ボク、おともだちになりたいんだ!!」

キュレムの方をちらりと見ると、やはり驚いていた。

「だってさ、キュレム。いいよね??」

ニコッと笑ってキュレムに言う。


「…あぁ」

戸惑いながらも、承諾してくれた。
キュレムの表情が、和らいだ。

ほら、やっぱりお前は優しいんだ…


「俺も…」
「あ…あたしも!!」

俺達と住民達の間に"線"が無くなった今、キュレムは皆に囲まれて、代わる代わる頭を撫でられたりしている。

キュレムは嬉しそうに目をつぶり、されるがままになっている。


俺はダニエルとレオンと共に、その光景を少し離れたところで見つめていた。


****************************

もう少しで、ゴルバット達が活動をしようかという夕暮れ時。



「皆、今日は俺のお願いを聞いてくれて…本当にありがとう!!」

カゴメタウンを出る前に、もう一度皆にお礼を言った。


「いいんじゃ、元はといえばわしらが悪かったんじゃから…。わしらこそ、間違いを気付かせてくれたことに感謝しとる。ありがとう」

優しい表情で、お婆さんは言ってくれた。

「お兄ちゃん!!」

さっきの男の子が、駆け寄ってきた。

「また遊びに来てよ!!ボク、あのポケモンさんとまた遊びたいんだ!!」

キラキラと眩しい笑顔で男の子は言った。

「もちろん!!キュレムも、キミと楽しそうに遊んでいたから、何度でも遊びに来るさ!!」

俺は頭を撫でながら答えた。

「約束だよ、お兄ちゃん!!」

男の子は、スッと小指を差し出す。

俺はその小さな小指に、俺の小指を絡ませる。

『ゆーびきーりげんまん、うっそつーいたーらはーりせんぼんのーます!ゆーびきった!!』
「じゃあ…また来ます。さようなら!!」


そう手を振りながら、俺はカゴメタウンを離れた。




「キュレム、よかったな」

歩きながら、俺は言った。

「主のおかげだ…ありがとう…」

「トウヤでいいよ」

「そうか…」

ザザン…という波の音を聞きながら、俺達は砂浜を歩いていく。

「なぁ、キュレム」

「…なんだ?」

「これからもよろしくな!!」

「あぁ…。こちらこそ、よろしく」



漣が聞こえる入り江が、今日の野宿場所。

辺りに人工的な光りは無い。
きっと今日は星が沢山見れるだろう。

〜レポート〜

・カゴメタウンで、レオン、ダニエルの協力のお陰でキュレムの誤解を解くことに成功!!
・これからもよろしくな、キュレム!!
・明日はどこに行こう??



「よし、完了っと♪」



*****あとがき*****

どうも、白うさぎです。
こんなに長いものを最後まで読んで下さって、ありがとうございました!!

キュレムのお話でした。
いかがでしたか??
ちょっと(いゃ、かなり)シリアスになってしまいましたが…^^;
キュレムを捕まえた時は、まだマッちゃんはいませんでした。

次からはまた、マッちゃん達が登場する予定です!!

読んでやってもいいんだゼ!という心の広い方も、そうでない方も、次の作品で是非、お会いしましょう!!
 










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