謝罪と後悔(カゴメタウンにて)
これは、俺がキュレムを捕まえた後の話…
「おまちどおさま!お預かりしたポケモンはみんな元気になりましたよ!またのご利用をお待ちしてます!」
ジョーイさんからボールを受け取り、パソコンのボックスからダニエルを出して外に出る。
俺はジャイアントホールでキュレムを捕まえた後、猛ダッシュでポケモンセンターに行き、手持ちを全て回復させた。
ある事を実行する為に。 俺の親友のような悲しい気持ちを、キュレムに味わわせない為に。
「トウヤ、何故私をパソコンから出したんだ?」
ボールから出したダニエルは不思議そうに尋ねる。
「今日はお前に協力してもらわないといけないかもしれないからね」
歩きながら俺は答えた。 ダニエルは俺の横を這う。
「協力?何をするんだ?」 「とあるポケモンが、この街から迫害を受けていた。…っつっても、勝手に住民が見た目だけで判断して怖がって、そいつに危害を加えてたらしいんだけど…」
そう言って横を見ると、ダニエルは黄金の目を更に鋭くさせ、怒ったのか、尻尾をバンバンと石畳に打ち付けていた。
「許さん…っ!!」 「ちょっと…、落ち着けって!!」 「私達の仲間が迫害されていることを聞いて、落ち着いていられるかっ!!」
「まぁ待て。俺だって怒り爆発しそうなのを無理矢理押さえてる。こういう時こそ冷静にならなくてどうする?その仲間を救う為に、お前の力が必要なんだよ」 「む…。私としたことが、怒りで我を失いそうになっていた…」
プライドが高いダニエルは、すぐに冷静さを取り戻す。
「具体的に、どうやって迫害を止めさせるんだ?」
「あぁ。まず、レオンが"なかまづくり"を使って、街の住民をこのポケモンセンター前に集める。そして、俺が少し離れた所でそのポケモンを出す」 「そのポケモンは…街の人が噂していた、キュレムとかいう奴か?」
流石ダニエル。話が早い。
「あぁ、そうだ。俺がキュレムを出した時に、住民達は俺らを危険とみなして追い出そうと、こっちに向かってくるかもしれない。その時の為に、お前の"つるのむち"を俺らと住民の間に張っていて欲しいんだ」
そう、これは一か八かの勝負だ。 失敗すれば、俺達はこの街に入れなくなるかもしれない。
「承知した」
ダニエルは、真剣な顔で頷いた。
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「さてと…。レオン、頼んだよ」
レオンをボールから出し、俺は言った。
「了〜解〜♪いっちょ張り切っちゃおっかなぁ♪よろしくね、エル兄!」
「あぁ」
準備は万端。 あとは運のみ。
俺は深呼吸をして、指示を出した。
「レオン!"なかまづくり"!!」
ふわぁぁぁぁぁんっ!!
街全体に、不思議な波動が広がる。
すると、街の住民がぞろぞろと俺らのいるポケモンセンター前に集まってきた。
「誰かと思えば…なんだ、トウヤじゃないか。今日はどうしたんだ?」
頻繁にここに来る為、街の住民全員と顔見知りである。
「今日は、皆に見てもらいたいものがあるんだ。そして、それも兼ねて1つお願いも聞いて欲しい。その為にはダニエルに、俺と皆の間に"つるのむち"を張らなければならない。張ってもいいか?」
一応、承諾を得なければ。 勝手に張ると失礼だからな。
「なんだ、そんな事か。いいぜ♪」
他の住民も口々に、いいよ、と言った。
「ありがとう。ただし、これを見ても決してそこを動かないで欲しい!!…ダニエル、"つるのむち"」 「分かった」
ヒュンッという音と共に、俺と住民達の間に線が引かれた。
「出ておいで、キュレム」
ズンッ!と音を立ててキュレムは石畳に着地する。
「き…きゃぁぁぁっ!!!!」 女性が、悲鳴を上げた。
「く…!何故このポケモンがいるんだ!!」 「どういう事だ、トウヤ!!俺達をこのポケモンに喰わせる気か!?」
次々と俺に罵声を浴びせる住民達。
「皆、落ち着いてくれ!!俺は誤解を解きたいだけなんだ!!」
必死で訴えるが、住民は怒りと恐怖で混乱し、聞く耳を持たなかった。
「私の主を悪く言うな!!」
グルルル…とキュレムまで低く唸りだした。
「クソッ!!…レオン、"いやしのはどう"!!」
「ラジャー♪」
ほわぁぁん、と心地よい波動が広がる。
辺りが、静かになった。
「皆、お願いだ、俺の話を聞いてくれ!!」
不満そうな顔をしたまま、全員頷いた。
「皆、このポケモン…キュレムの事を知ってるよな?」
住民はコクン、と無言で頷く。
「そして、このポケモンを"人を喰らう化け物"と言った…間違いないよな?」 「けれど…!それは昔から言われていた事だし…っ!!あたしらのせいじゃ…」
そう言った金髪の若い女性を、ダニエルが睨み付けて黙らせる。
「俺が何でここまで言うか、疑問に思う人も居るかもしれない」
確かにそうだ、と住民はざわめく。
「俺が一年前…ポケモンリーグで優勝する前に出会った、大切な親友。そいつは俺らと同じ人間にも関わらず、実の父親から"バケモノ"呼ばわりされたんだ」
「え…?」
全員がその言葉に、凍り付いた。
「信じられないと思うかもしれないけれど、事実なんだ」
「…」
「俺はキュレムに初めて会った時に、そいつに似ていると思った。だから…、だからこそ、コイツを苦しみから解放する為なら!"化け物なんかじゃない"と誤解を解くことができるのなら!!…この街に俺が出入り禁止になってもいい、だから…っ!!」
"サヨナラ"と寂しい笑顔を残して去った、親友と同じ気持ちを、もう誰にもして欲しくなかった。
涙が、頬を伝った。
自分の無力さを改めて実感してしまった為か、それとも、悔しさからか。
「だから…っ、お願いだ、もうキュレムのことを、昔話であっても悪く言うのはよしてくれ!!見た目でこいつを判断しないでくれ…っ!!こいつは、人を喰ったコトなんて一度も無いんだ!!頼む!!」
俺は帽子を取り、頭を深く下げてそう言った。 涙は止まってくれず、石畳に次々と染みを作っていく。
「コイツは、バケモノなんかじゃないんだ…」
「トウヤ…」 「主…」
ダニエルとキュレムが、呆然としながら言った。
「トウヤ、じゃったかの?」
この声は…昔話を聞かせてくれたお婆さんだ。
「どうか、頭を上げて下さらんか」
「はい…」
俺は頭を上げて、真っすぐお婆さんを見る。
「お主の気持ち、よぉく伝わった。お主の言う通り、見た目だけで勝手な解釈をして、誤解を招いたわしらが悪かった…。この歳になっても、そのことに気が付かんかった自分が恥ずかしいわぃ…」
お婆さんは静かに言った。 目には、涙が溜まっていた。
「キュレムや、わしらの先祖の時代からお前に大変酷い事をしてしまった。申し訳ない…」キュレムは静かにお婆さんの話を聞いている。
「今までのことを許せなどという我が儘は、思っておらん。自分らの行いを後悔するばかりじゃ…。じゃが、わしらの謝罪を、どうか受けて欲しい…」
そう言うと、お婆さんは住民に頭を下げるように指示する。
全員が、涙を浮かべた目でキュレムを見る。
ダニエルは"つるのむち"をやめた。
「ごめんなさい…」 「…申し訳なかった」 「すまない…」
住民達は口々にそう言い、頭を一斉に深く下げた。
「もう、よい…」
静かにキュレムが言った。
「皆、頭を上げてくれ…。キュレムは、いいと言っている…」
皆は泣きながら、ゆっくりと顔を上げた。
「もう、バケモノ扱いしないと約束してくれないか…?」
「もちろん!!」 「あぁ!!」 「お前の気持ちは十分伝わったからな!!」
住民は真剣な顔で口々にそう答えた。
「皆…ありがとう!!!!」
俺は、心から感謝を述べた。
「ねぇ、お兄ちゃん」
そう言って近寄ってきたのは、小さな男の子。
「ん?何だい??」 「このポケモンさんに、さわってもいい?」
「キュレムにかい?」 「うん!!ボク、おともだちになりたいんだ!!」
キュレムの方をちらりと見ると、やはり驚いていた。
「だってさ、キュレム。いいよね??」
ニコッと笑ってキュレムに言う。
「…あぁ」
戸惑いながらも、承諾してくれた。 キュレムの表情が、和らいだ。
ほら、やっぱりお前は優しいんだ…
「俺も…」 「あ…あたしも!!」
俺達と住民達の間に"線"が無くなった今、キュレムは皆に囲まれて、代わる代わる頭を撫でられたりしている。
キュレムは嬉しそうに目をつぶり、されるがままになっている。
俺はダニエルとレオンと共に、その光景を少し離れたところで見つめていた。
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もう少しで、ゴルバット達が活動をしようかという夕暮れ時。
「皆、今日は俺のお願いを聞いてくれて…本当にありがとう!!」
カゴメタウンを出る前に、もう一度皆にお礼を言った。
「いいんじゃ、元はといえばわしらが悪かったんじゃから…。わしらこそ、間違いを気付かせてくれたことに感謝しとる。ありがとう」
優しい表情で、お婆さんは言ってくれた。
「お兄ちゃん!!」
さっきの男の子が、駆け寄ってきた。
「また遊びに来てよ!!ボク、あのポケモンさんとまた遊びたいんだ!!」
キラキラと眩しい笑顔で男の子は言った。
「もちろん!!キュレムも、キミと楽しそうに遊んでいたから、何度でも遊びに来るさ!!」
俺は頭を撫でながら答えた。
「約束だよ、お兄ちゃん!!」
男の子は、スッと小指を差し出す。
俺はその小さな小指に、俺の小指を絡ませる。
『ゆーびきーりげんまん、うっそつーいたーらはーりせんぼんのーます!ゆーびきった!!』 「じゃあ…また来ます。さようなら!!」
そう手を振りながら、俺はカゴメタウンを離れた。
「キュレム、よかったな」
歩きながら、俺は言った。
「主のおかげだ…ありがとう…」
「トウヤでいいよ」
「そうか…」
ザザン…という波の音を聞きながら、俺達は砂浜を歩いていく。
「なぁ、キュレム」
「…なんだ?」
「これからもよろしくな!!」
「あぁ…。こちらこそ、よろしく」
漣が聞こえる入り江が、今日の野宿場所。
辺りに人工的な光りは無い。 きっと今日は星が沢山見れるだろう。
〜レポート〜
・カゴメタウンで、レオン、ダニエルの協力のお陰でキュレムの誤解を解くことに成功!! ・これからもよろしくな、キュレム!! ・明日はどこに行こう??
「よし、完了っと♪」
*****あとがき*****
どうも、白うさぎです。 こんなに長いものを最後まで読んで下さって、ありがとうございました!!
キュレムのお話でした。 いかがでしたか?? ちょっと(いゃ、かなり)シリアスになってしまいましたが…^^; キュレムを捕まえた時は、まだマッちゃんはいませんでした。
次からはまた、マッちゃん達が登場する予定です!!
読んでやってもいいんだゼ!という心の広い方も、そうでない方も、次の作品で是非、お会いしましょう!!
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