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第十八夜





「え…行かない?」

『うん』

「……着替えておきながら今更何言ってるの?」



ため息混じりに呼びに来た莉磨がカウチに座り込んでいる珱を見下ろし言う。その珱はどこか不貞腐れたように体育座りのまま、一点を見つめていた。



「…何か…心配事でもあるの…?」



隣に腰掛けながら莉磨が問いかける。



『…どうして』

「何年一緒にいると思ってるのよ。それくらい分かる」

『…うん…』



少しばかり沈んだ表情をした珱の頭を莉磨はそっと撫でた。



「…珱も支葵も、周りに身任せなところがあるから…もう少し、自分を大切にしなよ…番犬だからって、アンタは一人で気負いすぎ」

『………』

「やりたいようにやりなよ…私も支葵も、珱が間違ったことをしたって一人にしないから…」

『莉磨…』



軽く目を見開いた珱は、目を伏せたが思ってもみなかった言葉に照れているようだった。



「それじゃ…私は行くけど、来たくなったら来てね」

『ん…莉磨、ありがと』

「ん」



ぱたん、と閉じられた扉を耳にして、珱はゆっくりと目を閉じた。







ーーーーコンコン。



『…誰』



誰もいないはずの寮に、扉をノックする音で珱は顔を向けた。



「珱」

『…藍堂さん…架院さん…』



目を瞬かせる珱に二人は近づく。



「遠矢にここにいるって聞いて…お前に聞きたい事があるんだ」

『聞きたいこと…?』



軽く首を傾げながら珱は藍堂を見上げる。



「お前なら、分かっているんじゃないか?緋桜閑の正体を」

『…居場所が知りたいんですか?』

「分かるのか?」



聞いておきながら、藍堂も暁も目を丸くした。



『仮の寮の地下…多分そこにいますよ…彼女は』

「…教えていいのか?」

『………純血種の番犬…総てにおいて最強の純血種に番犬なんて、不必要だと思いませんか?』



言われて、確かにと二人は思う。続きを待つが、珱は何も言わず立ち上がった。



『まだ何か…聞きたいことが?』

「あ…いや…」

「…珱」



ん?と暁を見上げる。



「黒主優姫がお前を探していた」

『…黒主優姫が?』



何となく、まり亜や枢に関係していると予想付き目を伏せる。



「ああ…それと、パーティー会場に顔出してやれよ。普通科の奴ら、結構落ち込んでたぞ」

『うん…』



二人が出て行って、珱は棚のアルバムから一枚の写真を取り出した。そこに写るのは、まだ幼い珱と数歳年下の少年。二人が囲むようにして寄り添う美しい女性は着物を着て小さく微笑んでいた。



『…どうして…』



泣きそうにくしゃりと顔を歪ませた珱は、俯かせていた顔を上げた。向かうのはパーティー会場。



「あ。来たんだ珱」

『支葵』



夜間部、普通科、数少ない交流を楽しんでいるパーティー会場を眺めながら歩いていた珱に気づいた支葵が声をかけた。



『…莉磨は?』

「あっちで誘われて踊ってる」

『へぇ…珍しい』

「踊るくらいいいし…だって」



それを聞くと莉磨らしいと思う。



『支葵は踊らないの?』

「さっきまで踊ってた」

『また珍しい…』

「一条さんに交流って」



それを聞くとまた支葵らしい。キョロキョロと優姫を探していた珱に近づく影。



「…あ、あの」



ん?と二人はかけられた声の方を見る。そこには体を堅くしてこちらを伺う普通科の生徒がいた。



「十六夜センパイ、お…俺と踊ってくれませんか…?」



無表情に目を瞬かせていた珱に、その生徒は益々緊張する。



『はい』

「へ?」



差し出された手に裏返った声が出る。



『?…踊るんでしょ?』



首を傾げる珱に慌てて嬉しそうに返事をして、その生徒は手を取った。





  



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