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「あの、ダンスの誘い受けてくれてありがとうございます」

『別に…親睦を深めないとだし、せっかく誘ってくれて理由もなく断るのは…』



失礼だから、と節目がちに答えた珱に相手は赤くなる。



「あの…十六夜センパイは覚えていないかもしれないんですけど…じ、実は俺、センパイに助けてもらったことが…」



え?と顔を上げる珱。



「帰省中に街で通り魔に襲われていたところを、通りがかったセンパイが助けてくれたんですよ…覚えてません、よね?」

『…』



覚えはないが、恐らく吸血鬼に襲われていたところを助けたのだと理解する。記憶の改ざんにより通り魔に変換されてるが。



『…ごめん』



なんだか申し訳なくなり謝罪すると、相手はいいと笑った。



「俺、ずっとセンパイに憧れてて…お礼も言えないままだったから、今日話しかけるのずっと狙ってて…その…あ、ありがとうございました!」



真っ直ぐに目を見つめ必死に伝えた彼に、珱は何も言えず視線をずらせば、壁際に立っていた零と目があった。そらせないでいて、向こうがそらすのを待つが、向こうが全然そらさない。

視線があった間合いに人が横切ったのを境に、珱は視線を俯けそらしたが、思わず足を止めてしまった。



「うわ!」

『っ!!』



いきなり足を止めたせいでバランスを崩し、珱は普通科の生徒に押し倒す形で倒れ込んだ。近くにいた者は驚き二人の様子に赤くなる者も。



「え、あ、十六夜センパ…だ、大丈夫で…すか!?」



起き上がった珱は取り乱した様子なく落ち着き払っていたが生徒はテンパり真っ赤になっていた。



『…ごめん、いきなり足を止めて…』



ーーーーグイ.

腕を引っ張り上げられ驚き顔を上げる。



『…支葵?』

「次、俺と踊ってよ」



珱が返事をする暇なく支葵は珱を引っ張り、普通科の生徒は呆気にとられていた。その様子を周りの野次馬の視線に交じって眺めていたのは、零と、バルコニーで優姫と踊っていた枢だった。



『ねぇ支葵、どうしたの…?』



無言で手を引く支葵に珱は困惑した声をかけるが返事はない。



『怒ってるの?』

「…怒ってないよ」



立ち止まって振り向く支葵はいつも通りだが…。



『嘘、怒ってる』

「怒ってないよ」

『怒ってる』

「…ん」



差し出されてきた手に、何かと思いながらもお手をする形で手を重ねれば、引き寄せられ踊り始めた。目を瞬かせながらも支葵のステップに合わせて踊る。



『…本当にどうしたの?』

「別に。踊りたくなっただけ」

『ふーん』



音楽に合わせて踊る姿に周りからは感嘆のため息。



「なんか最近…元気ないよね…」



自分より背の高い支葵を見上げる。



「それに寝てないでしょ。顔色悪いし」

『…架院さんにも言われた…数時間ぐらいは、寝てるんだけど…』



ゆっくりと支葵が足を止めたので珱も足を止めた。



「…もうちょっとさ、頼ったら?」



ぽん、と手のひらが頭に優しく乗せられた。言葉少なだが、心配してくれているのは十分過ぎるほど伝わった。



『…うん』



照れ臭そうに面食らいながらも頷く珱は、莉磨も支葵も付き合いが長いだけあって鋭いなと思った。

頼ったら。純粋に嬉しかったが、話すわけにはいかない。



『支葵』

「ん?」

『…もし頼る時が来たら、その時はよろしく』



いたずらっ子のように小さく笑った珱に、支葵も同じようにほんの少し笑った。



『ちょっと行ってくる』

「うん」



支葵と別れて珱はパーティー会場を出て行く。



「『あ』」



ばったり出会したのは暁。



「さっきはありがとな。言われた場所に早速行ったが、本当にいた」

『それは良かったです…藍堂さんは?』

「別行動。寮長、まだ会場にいるか?」

『いるんじゃないですか、多分。私は見かけてませんけど』

「…て、お前また会場抜け出すのか?来たばかりだろ」

『…ちょっと』



言った珱の表情に、暁は口を閉じた。



『…それじゃ、架院さん』

「ああ」



暁と別れて珱は仮の寮に向かうのだが、その様子をテラスから枢が見下ろしていた。

仮の寮に来た珱はまり亜にあてがわれた部屋に向かっていたのだが、カツンとヒールを響かせて足を止めた。



『誰?』



振り向いて廊下の角を睨みつければ、そこから人が姿を現した。



『……錐生、くん…?』



目を丸くして珱が見つめる先には、零がいた…が、服装は普通科の制服ではないし、髪型も微妙に違う。だがしかし、鏡に映したように顔立ちは同じ…まさかと、昔の記憶を手繰り寄せた。



『…………錐生壱縷…くん……?』

「…正解」



うっすら笑みを浮かべながら壱縷が口を開いた。





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