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第十五夜





寮の自室で珱は床に実家から送られてきた書類をバラまき、ベッドに寝そべりながら一束の書類を見ていた。顔写真の横にプロフィールがあるそれに、珱は目を細めて並ぶ文字を追っていく。ふと時計に目をやれば、もう登校時間を過ぎていた。



『…遅刻』



さして慌てることなく起き上がると書類を手に教科書を机から取ると部屋を後にした。



「あ!十六夜センパイ遅刻ですよ!」



校舎まで来ると優姫が可愛らしくぷんすかしながら待っていた。



『…ちょっと、諸事情で』

「もう授業始まっちゃいますよ」



優姫に見送られ珱は校舎内に入る。扉が閉まる手前で目の端に優姫が思い詰めたようにため息をするのが見えた。



「くすす…くすくす…」



聞こえてきた鈴を転がしたような可愛らしい笑い声。扉を開ければ、その先の教壇に腰掛け教室を見渡す少女がいた。



「楽しそうなクラスで良かった…∨」



見たことがない生徒…だが、珱は見たことがあった。実家から送られてきた書類は、まさしく彼女…紅まり亜の事だったからだ。



「ねえ…授業≠ヘまだ始まらないの?」

「お前…誰だ…?」



全員の視線が注がれる中訊ねたまり亜に訝しげに藍堂が呟く。



「…おまえ…?」



藍堂に目を留めたまり亜はふわっと教壇から離れると、机を一蹴りして藍堂の目の前に着地。



「ねえ君…おまえって…私のこと…?」



無表情のようで笑っているような瞳…訊ねるようで脅すような声…注がれる空気に、藍堂はぞくりと悪寒を感じた。



「新参の方が自ら名乗れば済むことだよ…『紅まり亜』…」

「……あ…」



助け舟…本人がそう思っているのかは分からないが、言った枢にまり亜が困ったように顔を向けた。



「不愉快にさせてごめんなさい…玖蘭…枢様…」



収まりを見せたかに思えた場は、さらに悪化することに。



「ああ…!純血の方にお逢いできるなんてまり亜うれしい…!」

「な…」



そっと枢の手に手を添えたかと思うと次には感激したようにその手に頬擦りしたまり亜に、教室は騒然。



「……はじめまして…」



至って冷静に、お世辞にも心がこもっているとは言い難い態度でただ返す枢。



「あ……」



周りからの視線に、まり亜は枢から距離をとる。



「ごめんなさい、なんだか私…空気を悪くしたみたいね」



教室の入り口からずっと様子見だった珱はまり亜と目があった。ふふっ…と目を細めたまり亜に眉をひそめた。



「私はひとまず席をはずした方がよさそうね」



逆側の扉から出て行ったまり亜を見て、珱は後を追おうと廊下に出る。



「珱」



暁に呼び止められ何かと振り向く。



「お前の事だ…彼女の事についての書類が実家から送られているだろ?」

『はい』

「ちゃんと返すから、俺にも見せてくれないか?」

『……』



手に持っていたクリップ止めされていた書類からピッと一枚だけ抜き取り差し出す。



『どうぞ…今はこの一枚しか見せれないけど、いいですか?』

「ああ。すまないな」

『転入生を連れてきますから、寮長に遅れると伝えてください』

「わかった」



まり亜を追って外に出て少し探せば、優姫と零と一緒にいた。なんだか優姫が零からまり亜を庇っているような形の様子だ。



『紅さん』



あ、と優姫とまり亜、零がこちらを向く。



『授業が始まるよ…転入初日から遅刻はマズいんじゃない?』

「十六夜センパイ…」

「あ…さっき、扉のところにいた…」



目を丸くしてこちらを見る優姫の背後で、まり亜が記憶を思い出しながらこちらを見る。



『…十六夜珱。学園に慣れるまでの君の世話係』

「そうなの…?紅まり亜と申します、よろしくね…?」

『…よろしく…』

「それと…庇ってくれてありがとう優姫さん。いいコ≠ヒ…ホント好きよ…」



珱に歩み寄りながら優姫に言う。



「私知ってるわ…貴女みたいなコの血はとても美味しいの……仲良くしてね…」



物語の歯車は、動き始めた。



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