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第十六夜





『それ?あげます』

「え…」



いやいらないんだが…。

暁はまり亜について書かれた書類を手に、去っていく珱を見つめる。



「…どうしたんだ珱の奴は…」

「暁?」



通りがかった藍堂がん?と見る。



「いつにもまして顔色が悪い…寝てないんじゃないか?」



ため息混じりに呟きながら、暁は小さくなっていく珱の背中を眺めていた。

寝てないんじゃないか、という暁の読みは当たっており、まり亜が来て二回目の授業の今日まで寝ずの珱は、あることについて調べていた。



『ごめん一条さん、紅さんのお世話今日もよろしくお願いします』

「え…まぁ、いいよ」



ちょっと困ったようにしながらも、笑顔で承諾した一条に甘えて珱は部屋にこもり、実家から取り寄せた資料とにらめっこ。しょぼしょぼする目を数秒閉じてはまた資料を見るの繰り返し。



『…紅まり亜…』



玖蘭と同格の純血種である緋桜閑の遠い昔の遠い親戚…。



『!』



ギシ、と珱が勢いよく起き上がればベッドが軋んだ。



『……』



一つの名前を見て、一瞬悪寒を感じた珱は憔悴しきったように冷や汗を浮かべ肩で息をする。何だったのかと頭を振って、ハッと窓の外に顔を向ける。



『…錐生くん…?』



一緒にいる人の気配は…。

刀を手にしてシャツとスカートのまま部屋を飛び出すが、すぐにその足を止めた。



『寮長…』

「…どこに行く気?」



壁に寄りかかったまま問いかけてくる枢。



『言わなくても、寮長には分かっているんじゃないですか…?』

「…」



気まずそうにしながらも歩きだそうとした珱の手を、枢が掴んだ。



「行かないで。そう言ったら?」

『え……』



戸惑ったように瞳を揺らす珱に、枢は苦笑した。



「…ごめん。気をつけて行っておいで」

『……』



目をそらし離された手首を握って、珱はその場を走り出し普通科男子寮へと向かった。



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