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4


部屋へと戻る帰り道。ふと振り向いた先に夏目は、天井からぶら下がる首から下の体を見つけてしまった。



「うわぁ!!!」

「わ?!」



血の気を引かせて悲鳴を上げた夏目。その拍子に名取にぶつかる。



「どうした」

「あ、あのあそこに……」

『あそこ…?』



もう一度夏目は先ほどの場所を見る。



「…あ…消えた…?」



ぶらんと、力なくぶら下がっていた体は消えていた。



「名取さん他にも式を?」

「いや、柊以外は連れてきていない。ーーーー何か見たのかい?」

「あ、いえ…」



気のせいかと、もう一度確認するがやはりいない。不思議そうに雪野もその場所を見るが首を傾げる。



「館内を一周してこようかな。湯ざめするから、二人は部屋で待っていてくれ」

「えっ、でも…」

「大丈夫、すぐもどるよ。いくぞ柊」



行ってしまった名取に、夏目と雪野は顔を見合わせた。

ーーーーガコン.



『はい』

「ありがとう」



自販機で飲み物を買い、近くの椅子に夏目達は腰掛ける。



「ーーーー黙っていればよかったな」



呟いた夏目に、ペットボトルの蓋を開けながら雪野は目を向けた。



『さっきの?』

「ああ。休養のつもりで誘ってくれたのに」

「夏目、一応友人帳は気をつけていろよ」

「ああ。ちゃんとここにある」



持っていたカバンを軽く夏目は持ち上げる。



「…また、友人帳狙いの妖でもいるんだろうか。そういえば「友人帳」のこと、名取さんには話してないんだよな」

『ああ、そうだったね』

「話すな。横取りされる」



むっ。と夏目は顔をしかめた。



「あんな人でもそんなことしないぞ」

「そんなこと言って打ちあけたとしてもお前のことだ。その後どうせ友人帳めあてで構ってくれてるんじゃないかとか、うじうじ考えるに決まってる」

「……」



ちょっと考える。



「確かにそれは面倒だな…」

「ネガティブなやつめ」

『はは。……あ』



思い出したように雪野は傾けていたペットボトルを戻す。



『変なこと続きで話すけど、部屋の押入れに壺があったんだ』

「壺?押し入れの中にか?」



そう。と斑に頷く雪野は、手で大きさを示す。



『このくらいかな…フタのある壺で、フタに何か切れかかった神が貼ってあったんだけど…ーーーー何か、嫌な感じがして…』



思い出して、雪野の顔が少しひきつる。



「そういえば丁度お前の部屋下あたりだったな」

『ーーーーえ?』

「夏目が見たっていう、人の体がぶらさがってたって場所さ。大きさも、丁度人の頭が入るくらいだったな」



ーーーーぞっ.

夏目と雪野は背筋を震わせると血の気を引かせた。



「聞かなかったことにしよう」

『見なかったことにしよう』

「む、開けてみんのかツマラン。案外、美味しいラッキョウがぎっしりかもしれんぞ」

「ひっかからないぞ。そんな面白い誘惑になんか」

『なんでラッキョウ…』

「ただいま。ラッキョウがどうしたって?」

「わっ、名取さん」



館内の見回りが終わったらしい名取が戻ってきた。



「部屋で待っていて良かったのに」

『のどが渇いたから。どうでしたか?』

「特に変わりはなかったよ。そっちは何かあったのかい?」

「ーーーーいえ……」

「ーーーー…そうかい」



嘘をついていることに気づいている。それでも知らないフリをした名取は、笑ってる斑を抱き上げた。



「よし、じゃあ食事にしよう。猫ちゃんに刺身追加しようか」

「まじ!?」

「ーーーー…」



名取の対応に夏目と雪野は伏し目がちに目を合わせた。



「ーーーーすみません名取さん」



名取の背中に話しかける。



「…本当は少し気になってることがあるんです。でも今のところ姿を見かけたり音を聞くだけで害はないしーーーーせっかく楽しい旅行に連れてきてもらったんだし、話して気を煩わせる程のことでは…」

「ーーーーそうだね」



見下ろしていた名取は、ぽん、と夏目の頭を軽く撫でる。



「今日くらいは、妖のことは置いておこうか」

「ーーーーはい」



笑いかけた名取に、夏目も笑顔を見せて頷いた。



「こいつらに肉を食わせてやってください。ガリガリなのです」

「私のぶんもあげようか?」



肉を勧めてくる名取と柊に夏目と雪野はギブアップ。



「酌しろしゃくー。夏目ー、つまみにするぞコンニャロー」

「ねろよよっぱらいども」

「私は巡回に行ってくる」

『いってらっしゃい』



夕食の後はよっぱらいどもに絡まれてと、騒がしくはしゃいで部屋に戻った雪野は敷かれた布団に倒れ込んだ。



『(疲れた…!!)』



ーーーーでも、楽しいな…。

堪えきれず笑顔を浮かべた雪野はふと顔を上げ、壺があった押し入れを見つめた。



『(あれ…結局、なんなんだろう…)』



ーーーー「丁度人の頭が入るくらいだったな」

ぞわ。と、斑の言葉を思い出して血の気を引かせた雪野は、さっさとと布団に潜り込んで目を閉じた。




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