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3


「遠いところをいらっしゃいませ」

「お疲れになったでしょう」

「いえいえ。良いところですね」



旅館につくと綺麗な女将さんが出迎えてくれ、疲れた気分も和らぐ。



「ちょっと電話かけてくるよ。マネージャーに旅の事連絡するの忘れてた」

「え!?もー…お茶でもいれてきますよ」

『私、部屋に荷物置いてくる』



一人別室の雪野は与えられた部屋の扉を開けた。窓の外には見事な景色、清んだ空気、畳の匂い。雪野の目が少し輝く。



『(遠出もたまにはいいかもしれない…)』



わくわくと、荷物の整理を始めた時だった。

ーーーーカタ.

微かな物音が聞こえて、作業の手を雪野は止めた。

ーーーーカタカタ…カタ…

音の出所は、押入れの中からだ。



『…?』



ーーーーすすっ…



『ーーーー…壺?』



恐る恐る開けた押し入れの中には布団の他に、場違いだろう壺が置かれていた。



『(なんでこんなところに壺が…?)』



目を瞬かせていた雪野だったが、冷や汗を流した。



『(なんか嫌だな…これ)』

「雪野ー」



はっと、夏目の声に雪野は襖を閉めて立ち上がる。扉を開けると夏目と名取がいた。



「今から温泉に行かないかい?部屋は別でも、ご飯は一緒に食べる予定だし」

『はい…』



頷いて、ちらりと押し入れを見る雪野。



『(いいかな…言わなくても)あれ?先生は…』

「多分遊びに行ったんだと思う。そのうち来るよ」



と思っていたら、夏目や名取よりも先に来ていた斑は一番風呂を堪能していた。



「獣が一番風呂とはどういうことだ!」

「師匠が先に入るもんなんだアホウめ!」

「いつ師匠になったんだよ!」

「あははは。こらこらケンカはいけないなあ」



?やけに賑やかだな…。お風呂の準備をしつつ、聞こえてくる賑やかな声に雪野は何事かと目を瞬かせた。



『あー…』



湯へと浸かり、気持ちよさそうに雪野は目を閉じると、ぼちゃんと頭から沈み込んだ。



『(きもちい…あったまるー)』



ーーーーそういえば、家族以外との旅行って初めてだ…。

ぷくぷくと出る気泡を眺めて、水面へと勢いよく顔を出した雪野は硬直した。



「どうした雪野。酸欠か」



目の前で見下ろすのは柊。



『うっ』



ーーーーざばぁ.



『うぎゃあ!!!』

「……」



柊だったが、突然の出来事に考えるよりも先に手が動き、柊めがけ雪野はお湯をぶっかけた。悲鳴を聞きつけた夏目達は何事かと驚いていた。



「…妖といえど女同士だろうに」

『ごめん。でも急に出てきたからビックリしたんだよ』

「何事かと思ったぞ…」

「柊、驚かしちゃだめだと言ったろ」

「すみません。軟弱な奴だというの忘れていました」



本当のことだが言われるとむかぁ、となる。ぽたぽたと、雫が落ちる柊に夏目はタオルを取り出す。



「柊、よく拭かないと風邪ひいてしまうよ」

「放っておいて構わないよ夏目。妖は風邪なんかひかない」

「えー…ああそうか。良かった」



笑いながら気にせず柊の頭を拭いてやる夏目を名取は見つめていた。




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