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場所を移して喫茶店。



「夏目、今度の連休ヒマかい?」

「……いいえ」

「雪野ちゃん、温泉好きかい?」

『…別に…』

「一緒に行かないかい温泉旅行」



カップを持つ手が止まった。



「『は?』」

「芳香剤の懸賞で当たったんだ。温泉ペア宿泊券」

「へ、へぇ…ホウコウザイ…」

『それはすごい…てか、ペアなら二人しか行けませんけど…』

「私の分は自腹で出すさ。どちらか一人なんて不公平だろう?」

「なぜ僕らなんです…女性でも誘ったらどうです?」

「うちの事務所、そういうの禁止なんだ」

『私女性ですけど』

「君は大丈夫さ」

「『……』」



どういう理屈だ。口には出さないが。



「毎度なんとなくうさん臭い男だな。そのガキ食ってやろうか」

『だめ』



店内には入れないので外から窓に張り付く斑に雪野が見向きせず即答。



「…男友達だっているでしょうに」

「いや、同じ風景が見える友人は君だけだよ」



軽く受け流していた二人だったが、同じ立場同士その言葉は無視できなかった。



「…おれ、旅行したことないんです」

「親御さんには私から話そう。そうだ、その旅館ペットも可だよ」

「何ーーーー!?行くぞ夏目、雪野。卵、卵、温泉卵!!」

「『……』」



もう断れなかった。



「まぁ旅行?素敵」



早速塔子に話をすると、塔子は自分のことのように笑った。



「こんなしっかりしたお友達と一緒なら安心ね」

「明日迎えに来ます」



安心と言う塔子の言葉にそうですかね…。と外面の笑顔を無駄にキラキラさせながら花束を差し出す名取の後ろで二人は思う。



「ふふ、貴志くんいつも遠慮ばかりしてるから何だか嬉しいわ。二人ともゆっくり楽しんでいらっしゃい」

「…お、おみやげ買ってきます」



こんなに嬉しそうに笑ってくれるなら、おみやげの一つや二つや三つ買って帰ろうと夏目は思った。

ーーーーこうして。



「まずは電車だよ」

「電車?」



三人と一匹、一泊二日温泉旅行は始まった。



「ここから少し歩きだよ」

「はい」



電車を乗り継ぎ、バスに乗り、そして目的の旅館まで歩く。



「随分、山奥にあるんですね」



慣れない夏目や雪野は長距離移動にぐったりだ。



「お忍び旅行だから丁度いいよ」

「公共交通を乗りつぎまくってお忍びでもないでしょうに」

「ハラが減ったぞ。きびきび歩けグズ共め」



後方を歩く雪野はふらふらと荷物を持ち直しため息。



「ーーーー疲れたかい?」



ひょいと、声をかけつつ名取は雪野の手からカバンを手に取る。



『だ…大丈夫です。自分で持てますから』

「いいよ。女の子にはちょっとキツかったかな…あ、夏目にも」



ははは。と笑う名取を夏目は不機嫌そうに睨む。



「…そりゃ、ちょっとキツいですけど…でも、晴れて良かった」

「ああ。そうだね」



満更でもなさそうに呟いた夏目に、名取も頷いた。




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