温泉へ行く
降り始めていた小雨に小走りに帰り道を急いでいた雪野だったが、雲が切れ間を見せ始めた。止み始めた雨に手で雨を払う。
ーーーーヒソヒソ.
「困った」
「困った」
「これでは通れぬぞ」
「困ったのう。これでは進めぬ」
囁くような小さな声が聞こえた。何かと思わず足を止めて見下ろした雪野はぎょっとした。
『(ちっさ!)』
御輿を担ぐ四人組は、雪野の膝丈にも満たなかった。
「困った」
「困った」
目の前にある水たまりに足止めをくらっているようだが、少し回れば通れるのに。と雪野は呆れ半分に笑う。
ーーーーカタン.
「やや、道が出来たぞ」
「これは助かった。参ろう参ろう」
道端にあった木の板を橋渡しにしてやる。雪野がまるで見えてないように御輿を担いだ彼らは嬉しそうに渡り始めた。
『(なんだろうこの御輿…何を運んでるんだ?)』
好奇心にしゃがみ込み眺めていると、ふわりと布が風に舞って捲れた。
『!!』
御輿の中には、三つ目の目玉がない生首。
『うっわーーーーっっ』
「さあ、急いでお館さまをお体のところまで運ぶのだ」
『『『運ぶのだー』』』
意気込む彼らとはすぐさま雪野は逃げるように別れた。
『(びっくりしたー…ん…?)』
玄関前に、夏目と斑を発見。
『ただいまー。何してるの?』
「おかえり。戸にこんなものが挟んであって…」
ーーーーふっ.
連なる紙人形が、夏目の手から離れた。
ーーーーしゅる.
「う!?」
はっと身構えた夏目に紙人形が巻き付いた。
「う、わぁぁぁあああ!?」
「ぎゃっ、夏目!?」
『貴志くーん!!?どこに!?』
ずるずるずると、夏目は紙人形に引きずられる。
「な、何だ!?すごい力でひっぱられる…いてっ、いてて。わーーーーっっ」
ーーーーどっ.
「!」
茂みの中も気にせず引っ張る紙人形にされるがまま、コンクリートの地面にぶつかりやっと紙人形の動きが止まった。
「(…ここは?近所の公園か…?)」
痛みに顔をしかめながら周りの状況を把握していると、目の前に人の気配。
「あれ?夏目君?」
「!」
顔を上げてびっくり。
「名取さん」
「やあ、久しぶり」
いつもの変装をしている名取は、夏目の様子に驚くことなく爽やかに笑う。
「君が帰ったら知らせに飛んでくるよう術をかけた紙人形を戸に挟んでおいたんだけど…君はどんくさいね。からまっちゃったの!?」
「これあんたの仕業ですか」
あはははは。と笑う名取に夏目は怒りをおぼえる。
『あれ?名取さん』
「こんにちは」
追いついた雪野と斑に挨拶する名取。
『なんでまたここに…』
「まあこんな所で立ち話も何だし」
「……」
周りの人々が、徐々に気付き始めていた。
「お茶にでも行こうか」
素顔を見せた名取に、周りから黄色い歓声。もう慣れてきた雪野達は内心で思う。
ーーーー正直ちょっとうっとうしい。
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