4
報告を聞き雪野達はすぐさま東の森へと向かった。
「封印ってどうやる気だ玄」
「私の妖力はほとんど残っていません。この器がなくなれば、強制的に魂はあの石像に帰り深く眠ることになるでしょう」
玄は夏目の頭に乗っている。
「おそらくもう一度翠に触れれば邪の熱で私の体は溶けるでしょう。けれどその瞬間うまく彼女を抱きしめ放さなければ、魂は二人共にあのひとつの石像へ帰ることが出来るかもしれない」
「!!そんな不確かな方法しかないのか?」
『大丈夫なの!?』
「やらせてください。翠をきっとあの場所へ連れて帰りたいんです」
翠を探して、東の森をあちこち走り回る。息を乱して探し回ったその結果ーーーー。
「翠…」
枯れ木の上からこちらを見下ろす翠を見つけた。
ーーーーカッ.
「あっ」
衝撃を受けてしまい弾き飛ばされた拍子に、頭から玄が落ちてしまい夏目ははっと手を伸ばすも届かない。
『玄っっ』
「!」
飛び出した雪野が玄をキャッチしたが、勢いあまり窪みへと落下してしまった。
「雪野!玄!」
ーーーーどすっ.
『うっ…』
腰から着地した雪野は痛みに顔をしかめながらも、手の中に玄を確認するとホッとする。
「大丈夫ですか鈴木様っ…申し訳ありません、私のために」
『大丈夫。だから玄、早く…』
「ですが鈴木様が」
『翠が逃げちゃう。貴志君が引き止めてくれているかもしれないけど…翠と帰るんでしょう?』
玄へと雪野は微笑んだ。
『翠と帰りな、玄』
微笑む雪野に玄は口を閉じた。
「雪野!」
『!先生』
ーーーーどろん.
「放れろ夏目!」
必死に翠を引き止めていた夏目は斑の声に反応すると、翠から手を離した。その直後、入れ替わるように人型へと戻った玄が翠を抱きしめた。
「…い。さむい。さむい。さむい」
「…私も…寒かったよ翠」
空に呟く翠へ、玄は語りかける。
「寒かった。だから、帰ろう。一緒に。帰ろう」
目を閉じる玄を翠は拒絶せず見つめる。
「君の心がいつか癒えたら、また二人で虹を待とう。私も翠、幸せだったんだよ」
君がそばにいてくれたからーーーー…。
消え始めた玄の言葉は、翠に届いた。目尻から涙をぽろぽろとこぼした翠は、穏やかな表情をして玄を抱きしめた。
ーーーーぱあぁ.
さようなら
夏目様…
鈴木様…
さようなら
ーーーーまるで手に落ちた雪が溶けるように、玄も翠も消えてしまった。けれどその時放たれた光は、とてもとてもあたたかく、その夜は、はしゃぐような二つの光が、虹のかかった山へ帰っていく夢を見た。
「二人は石像にちゃんと帰ったかな」
「大丈夫だろう。言っとくが夏目、お前のような弱っちい奴が思っているほど、妖は弱くはないぞ」
「ーーーーそうだな。強い先生が思ってるほど、おれはまだ別れには強くないんだよ」
腰に効く薬草を斑に教えてもらい、それを取る際に石像を眺めた帰り道。
「だからさーーーー…だから…大切だと思ったことは、大事にしていきたいんだ」
「お前が言うことはいつもわからんな」
わからないならそれでいいらしく、夏目は笑った。
「ところで雪野、腰の様子はどうなんだ?」
『一気に年老いた気分だよ』
「私のとっときの薬草ならばたちどころに若返るぞ」
本当に効くのだろうか。胡散臭そうに雪野と夏目は手元の薬草を見つめた。
『明日もまた取りに行こうかな』
「なら、明日は花の種でもまかないか」
「しばの原にか?」
「ああ」
虹は見せてやれないけれど
三色の花の種をまこう
人は花が好きなんだ
妖だってきっとそうだろう?
同じ春がめぐるだろう。
next.▼ ◎