4
「さぁよこせ友人帳を」
本来の姿へと戻ったニャンコ…もとい斑が夏目に乗りかかり友人帳を奪おうとしていた。
「だっ、だめだ。先生こそ変なことに使う気だろ」
「むっ、あたりまえだそんな面白そうなもの!!」
「なっ、何て奴だ…!」
「早くわたさないと潰してしまうぞ」
「う……、……」
「さぁ…」
その時だった。
『貴志くんを離してよっ』
ーーーーゴッ.
「雪野!?」
「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
現れた雪野が斑に蹴りをお見舞いした。結構な威力のようで、斑は蹴られたところをおさえて悶絶している。
『た、たかし、くん…だいじょ、ぶ?』
「大丈夫ってか、雪野の方が大丈夫か?」
『…つ、疲れた…』
ゼーハーと肩で息をする雪野。
『……先生って、こんな姿だったんだ。びっくりした』
「おれもびっくりした」
『…ニャンコ先生、友人帳奪おうとしたんだね…』
「…あのなぁニャンコ先生…一応これは、おれらにとっては祖母の大事な遺品なんだ」
『軽々しく手放せないよ』
「ーーーー確かに祖母もミヨさんも、人とうまくつきあえなかったらしい。彼女たちを憶えている人≠ヘほとんどいないんだ。娘だった母でさえ記憶にないくらい若くして亡くなっていて……唯一血縁の自分たちくらいは、その名を憶えていたり遺品を大切に預かってたり……つながりを持っていてやりたいんだ」
『うん…人ごととは思えないし』
「……」
じっと斑は二人を黙って見つめる。
「……さて、面倒はなるべく避けたい。返せるならさっさと返さないとな」
「何を?」
そーっと動き出した夏目。
「名前だよ。先生、返し方知らないか?」
「あほう、やめんかもったいない!!それに何枚あると思っているんだ!!そもそも方法は簡単だが凶暴な相手も多い。長生きできんぞ」
「平気だ。おれらには先生についてるじゃないか」
『用心棒、してくれるんでしょ?』
「何だと!?」
「本来、こういうことに関わりたくはなかったけれど…」
『ある意味祖母たちがお世話になった妖怪達だもん』
「おれらが途中で命を落としたら友人帳は譲るから。頼むよ先生」
『力をかして…?』
真っ直ぐに斑を二人は見つめる。
「ーーーー…本当だな?本当にお前たちが消える時は友人帳、私が拾っていいんだな?」
「ーーーーああ」
斑の言葉に二人は嬉しそうに笑って答えた。
「ーーーー…よかろう。見届けよう」
「『……ありがとう』」
そして、まずは夏目を追いかけていた妖怪たちへと返すことにしたのだが…。
ーーーーずる…ずる…
『(…デカイ)』
「(こいつは後まわしだ。もう一匹でまず試せ)」
「(そうだな)」
初めてということもあり、三人は人の姿に似ているもう一匹の方を探し始めた。
「(お、いた!)」
少し走った先にもう一匹を発見。
「雪野、あいつをイメージしつつ開いて念じろ」
『うん…我を護りし者よ、その名を示せ』
バッと友人帳を開き唱えると、風が吹いているわけでもないのにパラパラとページがめくれていく。
「あとは自動的に友人帳が割り出すよ」
その時妖の方がこちらに気づいて向かってきた。
『きゃーーーーっっ』
「わーーーー来たっっ」
慌てて雪野の手をとると夏目は猛スピードで逃げ出した。
「雪野名前は!?」
『ま、まだっ』
「早くしてくれ〜」
『ニャンコ先生重いっっ!!』
逃げながら友人帳が名前を割り出す時間稼ぎをしていると、あるページで紙が止まった。
『これだ…貴志くん!』
ビリッと破ると夏目へと慌てて雪野は押し付けるように手渡した。受け取った夏目は斑から教わった方法を思い出す。
ーーーー「次に必要なのはレイコかミヨの唾液と息。血族(お前たち)ならやれる。だが、この作業は夏目、お前がした方がいいだろう」
ーーーーぱんっ.
紙を口に咥え、言われた通り手を強く打ち合わせた柏手を打つ。ふっ…と息を吐くと、紙から文字がしゅるしゅると出てきた。
ーーーーかりかげ。
「君へ返そう 受けてくれ」
紙から出ていった文字は、妖、かりかげの額へと吸い込まれていった。
「…イコ、ミヨ…………」
直後、風光が訪れかりかげがいた場所を見ると、そこにかりかげの姿はなかった。
『いない…』
「帰ったか。まずは一匹。どうやらやれそうだな」
「ーーーー…ああ」
▼ ◎