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神社を目指して藪の中を走って行く夏目と雪野。
『あっ…!!』
「う、わっ…!」
足がもつれて転けてしまった雪野に巻き込まれ、手を引いていた夏目も転けてしまった。その際、転ける音と共にブチッと何かが千切れる音がしたが二人は気づかない。
『ご、ごめんなさい貴志君!大丈夫?!』
「あ、ああ…雪野も大丈夫か?」
怪我と、主に体力面で夏目が尋ねる。
『う、うん、だいじょ、ぶ…』
「(めちゃくちゃ肩で息してるー!)」
ぜーはーと肩で息をしている雪野はとてもすぐには走れそうにはない。
「……あれ?」
ふと地面に目をやった夏目は、不思議そうに声を出した。
『ど、したの?』
少し息が整ってきた雪野が問いかける。
「縄が……切れてる?」
夏目が手に取ったのは先程足で切ってしまった縄だった。
「もしかしてさっき転けた時に…」
《おお、結界が破れた…》
「『!?』」
突然辺りに響いた声に二人はビクッと反応して、声の出所を探した。出所は、夏目の背後にある祠だった。
『祠……!?』
「まずいぞ、何かやばいものを封じていた結界だったのかも」
『ええ!』
二人は慌てて縄をまた結び直そうとし始めた。だが時すでに遅く、祠からガタッと物音が。
驚き動かしていた手を止めた二人は顔を強ばらせて祠を見つめる。
《よくやったぞ小僧。ああ、外へ出られる》
その直後、バンッと音をたてて祠の扉が開かれた。身構えていた二人が祠の中に見たものは、ちょこんと鎮座する何処にでもあるだろう招き猫。
「プッ」
『クスッ』
拍子抜けした二人は招き猫を見るとなんだこれ?というように笑った。次の瞬間、祠から何かがスゴい勢いで飛び出した。
「『?!』」
衝撃に目を瞑っていた二人が目を開けると、先程の招き猫が動いていた。
「人のくせに妖怪(ワタシ)を見て動じないとはナマイキな」
「………慣れているんでね……」
『右に同じく……』
まさか招き猫が動き出すとは思わなかった二人は、驚くよりも呆気にとられていた。今まで見てきた妖怪はこんなに見慣れたものではなかったから、余計に怖がることはない。
「お前も妖怪なのか?」
「まぁな。しかしそこらの低級なのとは一緒にせんでもらいたい………ん?」
とてとてと二人に近づいてきた招き猫は、二人の顔を見て目を丸くした。
「お前達、夏目レイコに鈴木ミヨじゃないか……」
招き猫の口から出た名前に、今度は二人が目を丸くして答える…。
「……………ーーーー夏目レイコは祖母の名だ…」
『鈴木ミヨも、私の祖母の名前だよ………』
「そっ、祖母!?」
「…俺らの祖母を知っているのか?」
「…以前この辺りに住んでいて、二人共それはそれは美しい人だった」
「『ーーーーへぇ…』」
「そして、お前達のようにあやかしものを目に映すことができた。それゆえ、人は誰も彼女達を理解らなかった」
「『…へぇ』」
「彼女達は、いつも一緒だったがひとりだった」
『…一緒にいたのに、ひとりなの?』
「…いつもいつも、ひとりだった」
繰り返した招き猫の言葉に、雪野は何も言えなくなった。それは隣にいた夏目も。
「そこでレイコは妖怪相手に憂さ晴らしをはじめたのさ。面白そうとミヨも一緒にな」
「『(うっわイッキに雲行きがアヤシクなったぞ)』」
「お前達、ユウジンチョウを知っているかい?」
『えっ……』
「…ユウジン……」
その時草陰からガサッと音がして、あからさまに二人はビクリと反応した。
「追われているのか。結界の余波で低級なやつは近づけんさ」
『…そ、なの?』
「それは助か…!?」
物音がした方向をじっと見ていると、夏目の首に隙をついて招き猫が何か衝撃を与えた。
『貴志くん!?』
「う…何する……」
『…あれ?』
「…………逃げた!?」
はっと辺りを見渡すが、その場に招き猫の姿はなかった。
「…あのニャンコめ」
『痛むの?』
「ん…少し」
『話が通じるからって、油断したね…』
「……関わるとろくなことがない」
また妖怪が襲ってこないかと辺りを警戒しながら二人は家へと帰った。
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