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屋上のドアを開けると、地面に寝かされている生徒達と、向こうに立つ時雨を見つけた。



「おや、ちょこまかとどこへ行ったかと思えば、そちらから来るとは…」



かぶる傘の隙間から、時雨は夏目を見つめる。



「人間は嫌いだ。私をこんな卑しい妖にして、そのうえ我々の住処さえ奪おうなど、けして許さぬ」

「…こんなこと、やめてください」



眠らされているだけの生徒達に、夏目は、時雨には本気の悪意はないのだろうと感じた。

本当は、やっぱり優しくてーーーー…。



「…女の子が会いたがっていますよ。校内に残っているひとりの子が。とても、とても。なぜ会ってやらないんです」



時雨へと、夏目は問いかける。



「他人にはわからんよ、夏目殿」



名乗っていないのにと、目を瞬かせる夏目。



「その顔、思い出したよ。君はレイコの縁者だろう。「友人帳」を使って従わせればいいものを、君はお人良しだね」

「ご存知なら話が早い。名を返します」

「いらぬ」



ゆら…と、時雨の顔を隠す傘が消えたかと思うと、声を荒げ時雨は夏目に掴みかかった。



「うっ…」

「いらぬ。解放などいらぬ。最早穢れた名など、煮るなり焼くなりさっさと処分してくれれば良かったものを!」



何かが、夏目と時雨の間に割って入った。直後、眩い光が放たれ、夏目も時雨も目を庇い動きを止める。



「!」



晴れてくる煙の向こうに時雨は、雪野と斑を見つける。そして、構える夏目の口には友人帳から切り離された紙が咥えられていた。



『「時雨」様、名を返します。ひとりの女の子の心を支えた、優しい者の名前です』



時雨の目が見開かれる。

ふ…と、夏目が息を吹き出すと、紙から時雨へと名が帰っていく。そうして、流れ込んで来るのは時雨の記憶。



もう一度会ってしまったら、決まはもう来なくなるーーーー…。



「すまなかっな、人の子よ。最後にここに住む者達と、思い出詰まるこの場所くらい、守れやしないかと思っただけさ」



時雨からは、敵意が消えていた。



「夏目、名を返してくれてありがとう。しかし私はもう逝くよ。潮時だ。ありがとう夏目ーーーー…」

「時雨様…笹田は言っていました。時雨さまは不浄などではないって。救ってもらったんだって」



逝ってしまう前に、伝えなくてはと夏目は必死に訴える。



「おれの言葉なんか、信じなくてもいいから、どうか」



笹田の言葉だけはーーーー…。



「夏目君、鈴木さん、大丈夫…」



屋上までやって来た笹田と、時雨の目が一瞬かち合った。



「しぐ」



笹田が声を掛けるより前に、眩く光が溢れた。



「さらば」



ふわりと、笹田の頭に置かれた手の温もりと、優しい声。確かにそれは、笹田に届いた。


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