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『地区企画に参加?あれ肝だめしだよ?』
「いや、知ってるけど、半ば強制参加というか…」
家につき、夕食を終えて話を切り出した夏目に雪野は目を瞬かせた。
「頭数が足りなかったみたいで、雪野にも参加してほしいんだけど」
『え…う、う〜ん…参加するつもりなかったんだけど……って、貴志くんけっこう楽しみにしてる?』
「…ちょっといきたいな、肝だめし」
同級生の企画に誘われるのが初めての夏目は、少し楽しみでもあった。
「おーい夏目ー、鈴木ー、いこうぜー」
外から、迎えに来たらしい西村の声が聞こえる。仕方ないかとため息した雪野に、夏目は謝罪しつつ苦笑した。
「お、来たな夏目、鈴木も」
「ああ。お手やわらかにな」
「ん?それおまえらん家の猫か?ついてきてるぞ」
「『ん?』」
振り向いた先に斑を見つけぎょっとする。
「何でついて来るんだよ!!」
『お留守番しててって言ったじゃん!』
「いいじゃないか、面白そうだし。こういう時こそ用心棒だろ」
「そりゃそうかもしれないが」
「ん?今、その猫から変な声がしなかったか…?」
「い…いや!?」
笑って誤魔化す。
「ーーーー仕方ない。絶対皆の前でしゃべるなよ。猫のフリしていてくれよ」
「ちっ。お前は本当にわがままで世話がやけるな」
「何!?」
「わかったわかった」
不気味、頭がデカイと、何気に注目の的の斑だった。
「…19…20!よし二十名。始めるぞー」
メンバーが揃ったところで、合鍵を使い旧校舎の中へ。
「うわ、古いな。大丈夫なのか?」
「今日が見おさめだぞ、しっかり楽しめ!ルールは二人組で一階西階段からあがって、二階つきあたりのかべに名を書いて戻ってくる」
「ペアはクジ引きで一〜二十番の番号順。肝だめしといっても、ただ古い校舎内を歩くだけだ。おどかし役は一応特にはいないってことになってるしな」
初参加の夏目と雪野に北本が説明する。
「さぁ、クジ引きするぞ。全員引いてくれ」
実行委員が用意したクジ箱から、雪野もクジを引く。全員が引き終わったところで、せーのと番号を見せるべく手を出した。
ーーーーん?
差し出された手のひらには、番号が書かれたクジが乗せられている。一人だけ、何も乗せてない手のひらを差し出しているのが一瞬わかった。
「あれ?一枚足りない?」
「え?でも二十番までちゃんといるぞ」
「あ」
一人多い。
誰かが呟いた一言に、一瞬の静寂の後悲鳴。
「お、落ちつけ。参加希望出さずに来てる奴がいるだけだろ」
「実行委員演出だろう」
「濡れ衣だぞ、くそう…えっと…あれ?名簿どこいった?」
「あはは。やっぱり演出だろう。なんだー」
「そっちこそからかってんな」
ちょっとした騒ぎの中、夏目と雪野は足元を見下ろす。
「何かしたか先生」
「私じゃないぞ」
疑う二人を心外そうに斑は睨む。
「とにかく始めるぞ!第一組、出発!!」
始まる中、少し離れ雪野が斑を抱え上げて三人は小声で話す。
「…何かいるのか先生」
「わからんな」
『え?』
「本当に何もいないのか、この私に気配を感じさせない事が出来る程の奴がいるのか…ふふっ、面白くなってきた。たんけんだっっ」
『あっ、先生!』
雪野の腕を抜け出し、斑は意気揚々と旧校舎の奥へと駆けて行った。
まさか、友人帳のせいかと雪野は友人帳がある鞄の紐を握り締めた。
「この校舎には逸話があるらしいわ」
『笹田さん』
かけられた声の主、笹田に二人は振り向く。夏目と雪野が参加する要因を作ったような相手なだけあり、複雑そうに夏目は実行委員でもある彼女を見つめる。
「昔、人間が大好きな若い招福の神様がいて、子供に化けては村へ遊びに来ていたらしいの。ところが、ある強欲な商人が益々の繁栄を願って、その若神様を屋敷の地下牢に閉じ込めてしまったんだって。商人はその日から招福パワーで大もうけ」
しかし、その若神様は暗い地下で悲しんで悲しんで、やがて人を恨み、悪しきもののけとなり商人の家はやがてつぶれた。
「不吉な地となったそこは地価が安くなり、この校舎が建てられた。若神様は忌まわしい妖になってしまったことを嘆いて、今もまだ、この地をさ迷っているんですって」
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