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「ちっ…人の子のくせに生意気な程の力だな…」
田沼から出てきた白い靄が、徐々に人の形へと変わる。
「!お前が田沼にとりついている妖か」
「ーーーーああ、そうさ。友人を探す途中雷にうたれてしまってね。大事な私の鏡もその時砕けて、この辺りに飛び散ってしまったんだ。欠片を探そうにも雷にうたれては回復が遅くてね。この子を依代にさせてもらっているんだ」
「!田沼に穴を掘らせたのは…その鏡の欠片をーーーー…?」
「ああ。あの辺りにも落ちたはずだから探していたんだ」
窓から田沼が土を掘る姿を見つけて、夏目は走り出したのだ。
「欠片達は、光るものに溶けこみ姿を隠しているーーーーそしてどうやらひとつは、お前の目の中に落ち、隠れて、他の欠片が近付くと「拾ってくれ」と共鳴して痛むんだろうさ」
夏目の右目が痛み出したのも、欠片が近くにあったからだったのだ。
「ーーーーさあ。私の鏡をかえしておくれ」
「!!」
『貴志君!』
ーーーーすぱぁん.
「待てい!!」
「!ニャンコ先生、タキ」
妖の手が夏目へと伸ばされた時、窓を勢いよく開け放ち現れたのは斑とタキだった。
「…チッ」
「あ」
夏目から手を離した妖は、再び田沼の中へと入り込む。気絶していた田沼がゆっくりと起き上がった。
「…まあ、何にしろしばらく、この体に宿らせてもらう」
「何だと!?」
「田沼君!」
「安心しろ。そう長くは意識を乗っとれはしないーーーーしかし、無事にこいつをかえしてほしければ」
笑みを消した田沼は夏目へと目を向けた。
「協力しろ小僧。鏡の入ったその目があれば、欠片集めも容易かろう。鏡さえもどれば私は去る」
脅迫めいた取引だが、田沼の目は真剣なものだった。
「勝手なことを」
「!先生…」
「これ以上厄介ごとに付きあわされてたまるか。さあ」
ーーーーカッ.
「出ていくがいい!」
「ぎ…ゃ…!」
斑が光を放てば田沼から妖の影が引き放された……かと思われたが、そう簡単ではなかった。
「…まだだ、まだだ…」
はっと夏目は目を丸くする。
「鏡を集めるまで…放れはせんぞ……うう、う……」
一度は放れかけた妖も、弱りはしたようだがすぐにまた田沼の中へ。
「む!?私の光でも放れぬとは何と執念深い奴」
「田沼!」
「田沼君」
『しっかりして』
慌てて夏目達は田沼に駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「…ああ…事情は何とか聞こえていたよ」
痛む頭を抑えながら田沼が起き上がる。
「ーーーー…鏡の欠片を集めれば、出ていくんだな」
「ーーーーああ、そうだよ」
「!」
再び田沼の意識を乗っとったらしい妖に、夏目は複雑そうに睨んだ。
「…それが一番安全だろうな。無理やり追い出せば精神が危険かもしれないぞ」
「ーーーー…私も手伝っていい?」
『透』
急を要する事と、人手が必要な欠片探しに雪野は一瞬躊躇した後頷いた。
「ーーーー…夏目」
「田沼」
意識が戻ったらしい田沼に夏目はすぐに反応する。
「すまないが鏡集め、付きあってくれないか」
「もちろんだ」
迷うことなく頷いた夏目に田沼は微笑った。
「ーーーーありがとう」
話がまとまり、タキとは途中で別れて帰宅途中。
「ーーーーとりつかれているからなのか、少しわかるんだ」
「ーーーーん?」
何がだろうかと、夏目と雪野は田沼を見る。
「…すごく大切な鏡らしい」
「え」
「ーーーーどうやら友人が病気らしくて。その病気を祓う力を、あの鏡は持っている…らしいんだ」
「ーーーー友人のため…」
妖にも、譲れない事情があったからこそ、田沼から放れなかった。そんな妖を思って、無言になった三人に風が吹き抜ける。
「ーーーーそれと…警告もしている」
「警告?」
「その鏡はとても強い力を持っていて、欠片を狙ってくる妖もいるようだから、気をつけろと言っている」
ーーーー狙ってくる妖かーーーー…。
物騒な警告に警戒心を強めた夏目達の背後を、付けねらう影がいた。
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