3
そっと、取手に手をかけゆっくりと戸を数センチ開けて中を覗く…薄暗い教室には、やはりあの妖がいた。
『(いた)』
軽く顔を青ざめて、雪野は妖が見つめる壁を見た。壁には鏡がかかっており、その鏡を妖は割ったようで床には鏡の破片が落ちている。
『あっ』
こちらに気づいた妖が、窓の外へと軽やかに跳ねて去って行った。それを見送り、戸を開けて雪野は中へと入る。
『(また鏡を割ってたんだ…なんのために…)』
割れた鏡へと歩み寄った雪野は、ん?と床に落ちる鏡の破片の中から何かを見つけた。
『(何だ?何か光って見える…)』
目を凝らすと、破片に混じって何か光るものが見えた。気になりその光るもとを拾い上げた。
『ーーーー…銅鏡の欠片?』
なぜこんな所に…?
少し古びた銅鏡らしきその欠片を、雪野はまじまじと見つめる。
ーーーーガラ…
「雪野?」
目を擦りつつ、教室にやって来た夏目が不思議そうに声をかける。その隣には田沼の姿もあった。
『貴志君、田沼君…はっ。ち、違うから。鏡は私が割ったんじゃなくて、変な妖が…』
割れた鏡と交互に見てくる夏目と田沼が顔を青ざめるものだから、雪野は慌てて弁解する。
「変な妖…?それって、金槌を持った…!痛っ」
「夏目」
『貴志君?』
痛そうに右目を抑えた夏目に、雪野は何事かと驚く。
「うう…雪野、その持ってるもの…」
『え…こ、これ?』
慌てて雪野は夏目へと、今拾い上げた銅鏡の欠片を手渡す。
「(…痛みがひいた)」
雪野から受け取ると、右目の鋭い痛みがひいた夏目は、改めて受け取ったものを見る。
「…これは…銅鏡の欠片?」
『うん…鏡の破片に混じって落ちてた』
「田沼これ…」
「…えせ」
田沼にも銅鏡の欠片を見せようと振り向いた夏目は動きを止めた。
「かえせ。それをよこせ」
『田沼君?』
夏目に詰め寄る田沼の様子がおかしく、雪野は戸惑い声をかける。
「見つけたぞ私の鏡。かえせ。かえせ」
「田沼」
怪しげな笑みを浮かべる田沼に、すぐに違うと夏目は判断する。これは田沼についてる妖だと。
「かえせ!」
「!!」
夏目の顔面につかみかかってきた田沼の力は、人間とは思えないような強いものだった。
「わ…う…」
振りほどこうと夏目は田沼を押し退けようとするが、ビクともしない。
『田沼君やめて!』
このままでは危ないと思わず、雪野は田沼の顔面を引っ叩いた。すぐにはっと我にかえる。
『ご、ごめん田沼君!』
「田沼…」
ーーーーずるりっ.
「『わーーーーっ』」
田沼の中から何かが抜け出た。まるで魂が抜けてしまったかのような光景に思わず二人して悲鳴。
▼ ◎