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「鈴木さん」



教室に戻ってきた雪野にクラスメイトが駆け寄る。



「これ、当日販売するとき用のエプロンね」

『うん。ありがとう』

「このリボン自分でぬいつけてね」



え。そう言われた雪野は、受け取ったエプロンとリボンを見つめるとため息。



『いっ』

「雪野、大丈夫!?」

「いてっ。いってぇ」

「ああ、そこはゆっくり」



放課後。雪野と夏目はタキに、エプロンにリボンを縫い付ける作業を手伝ってもらっていた。



「大変だな二組も」



同席している田沼の手元の台本を雪野は見る。



『一組は劇なんだっけ』

「ああ。シェークスピアな。おれは裏方だけど」

「せっかくだしみんなで見に行きましょう?」

「ああ」



文化祭の準備が着々と進んでいく中、楽しいと気をぬくわけにもいかない夏目。しかし、警戒する夏目や雪野だったが、妖はすっかり鳴りをひそめ、特に目立った動きもなく、ヒノエからの連絡を待つうちに文化祭当日。



『いらっしゃいませー』



バザー会場の看板を持って、にこにこと笑顔を浮かべる雪野はタキが言ったようにもうやけくそ気味。



「雪野ちゃん写真撮ろうー」

『はーい』



賑やかにカメラを構える列に頷き一緒に写真を撮る。



「ありがとな」

「鈴木さんの笑った顔って、なんか俳優の名取周一に似てるよね」

『え』



何気なく言った生徒の一言に軽くショック。



『(……無意識に手本にしてたのかな…)』

「鈴木笑えー」



ムスッとする雪野にカメラを構える生徒が苦笑い。



「鈴木」



休憩に入っていた雪野に西村と北本が駆け寄る。



『あれ、北本君劇は?』

「もう終わったよ」

「そんなことより、夏目が…」



ふ、と目を見開く雪野。なんでも荷物の下敷きになって倒れたらしく、保健室で寝ているとのこと。すぐさま雪野は保健室へと駆け込んだ。



『貴志君』

「雪野」



扉を開けた雪野に、起きていたらしい夏目は目を丸くした。その膝の上には斑もいる。



「あっ。夏目気がついたか!」

「夏目!」



雪野に遅れて西村と北本も保健室に入り込むが、怒りの形相だ。



「何やってんだ!危ないことばっかりして。いっつもいっつも」

「何考えてんだ阿呆!おれ達に言えないことか!?バカったれめ」

『お、落ち着いて二人とも…』

「「落ち着いていられるか!!」」

「こら!保健室では静かに!!」



あんまりうるさいものだから保健室の先生が一喝。怒られている夏目はぽかんと目を丸くさせるが、それがさらに二人の怒りをかって頬をつねられる。



「夏目くん、倒れたって。大丈夫!?」



続いて現れたのはタキ…だが、髪が短いしスーツ姿だ。



「タキ…それ…男装か?あ、よかった夏目。元気そうだな」



同じくやって来た田沼はタキの格好に色々言いたそうたが、起きている夏目に安堵する。



「…あっ。五組の多軌さん」

「…それと田沼…だっけ?」

「あ」



はっ。とタキは斑に気づき思わず喜ぶ。



「こら。ニャンコの入室は困ります!」

『す、すみません!』



ーーーーこうして、夏目にとってはじめての文化祭が終わった。



「はぁ…」



後片付けも終わらせ、夏目は雪野や田沼、タキと一緒に帰り道を歩く。



「お騒がせしました」

「ふふ。本当だよ」

「…タキの男装や北本の劇も、もっとちゃんと見たかったな」

「そうだな」

「………」



斑を抱きしめるタキは恥ずかしそうに無言。



『また次があるよ。次は来年…今度こそ女装喫茶でもして、貴志君の女装を見てみたいな』

「いいな、それ」

「私も見たいなぁ」

「…絶対やだ」



顔をしかめる夏目に三人はクスクスと笑う。



「おーーーーい」



遠くから、呼びかける声。



「おーーーーい」



声に夏目が顔を上げると、北本と西村が手を振り笑いかけていた。



「釣り行かないか?自転車乗ってこーい」



そういえば。ふと雪野は思い出す。



『(自転車に乗れない貴志君に、二人がつきっきりで練習してたな)』



楽しそうに笑っていた三人を思い出して、隣で嬉しそうに笑う夏目を見た雪野は、軽く微笑みその背中を押した。





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