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「ーーーーさて、探さなければならないもういっぴきだが…」
あの後露神を連れて家へと帰宅した夏目と雪野。
「レイコにやぶれた私は、次≠ノ名を奪われた妖怪の噂をきいて顔を見にいったことがある。おそらくはそいつだろう。絵に描いてみせよう」
言って露神は紙に筆で小さな体を動かし絵を描き始めた。
「そんなので探せるのか?」
『友人帳の力で呼び出すことは無理なの?』
「従わせるには相手の顔を思い浮かべ、名を呼んで命令しなければならない。これじゃ名が読めないし、お前は顔も知らないだろうが」
斑の言葉にう、と雪野が言葉を詰まらせていると、出来たと露神が夏目達を見上げた。
「名は忘れたがこんな奴だったぞ」
露神が描いた絵は、魚のような平べったい物体だった。唇がたらこのようで、一番の特徴は胸に記された「参」という字だった。その絵に夏目も雪野も微妙な顔をした。
「…毛は無かったの?」
「毛は無かったの」
『これ、あてにしていいの?』
「これしかあてにできないの」
次第に夏目、斑、雪野の肩が震えだした。
「…で、このキュウ太郎はどこの沼に住んでるんだ?」
「いや、そいつは水妖怪ではなくて、三ノ塚の山に住んでいたぞ」
「『ぷっ』」
とうとう我慢できず吹き出した途端、二人と一匹は盛大に笑い出した。それはもう腹がよじれるほど。
「お前さん達…バチあたりな…」
その日から三ノ塚でキュウ太郎(仮)探しが始まった。もちろん聞き込み相手は妖怪ばかりだ。
途中友人帳を狙われたり襲われたり寝不足になりながらも、二人はしっかりと学校には行っていた。
「夏目、夏目」
「おい?鈴木。またねてる」
まあ、寝てばかりなのだが。
「いくら遠縁とはいえ…家では気を遣ってよく眠れないのかもな…」
かえるべー、とぐったりとしながら寝ている二人を呼ぶ。
「ん?」
その時北本は夏目の寝ぼけながらのノートに落書きされたものを発見した。
「…何だこれ」
『どこなのキュウちゃんー…』
隣の席で寝言を言った雪野をじっと二人は見て、顔を見合わせた。
「何なんだ二人」
「…さぁ…」
疲れてるんだな…ということで二人は納得したのだった。
「ニャンコ先生は猫の時は人に見えるんだよな」
「そりゃまねき猫の依代があるからな」
『へぇ』
露神のもとへ向かう途中、夏目達はそんな会話をしていた。
「それに私ほど強力な妖怪だと、自分の意志で姿を見せることもできるし、強力ゆえに天候や相手の気分で見えてしまう時もあるな」
露神のもとへ来ると、蜜柑をくれたあのおばあさんが露神の祠へお参りしていた。
ーーーーどうして見えないんだろう。
「あら、お若いのにあなた達もお参りに?」
「ええまぁ…」
「よかったわ。最近は私だけみたいで露神様お寂しいんじゃないかと思っていたんですよ」
『…いつ頃からお参りに?』
「小さい頃からね」
露神に会うのはやめて、二人はおばあさんと歩きながら話していた。
「笑わないでくださいね。私一度だけ、露神様≠お見かけしたことがある気がするんです」
「『えっ』」
その言葉に二人は目を見開いて驚いた。
「女学校からの帰り道、その日はとても良いお天気で。いつものようにお参りして目をあげようとしたら、祠のうしろに足が見えたんです」
『…話しかけたんですか?』
「いいえ。おどろいたけれど気づかないふりをしたわ。その翁の面を被った人は気持ちよさそうに今日は暖かいなぁ≠チて呟いていたの。私、思わずそうですね≠チて言ってしまいそうになったけれど、きっと私に姿を見られてしまったと気づけば露神様はびっくりして消えてしまう気がして…」
「『…』」
「ふふ。でも今思うとあれは旅芸人か何かだったのかしら。お面被った神様なんてねぇ」
『えっと…』
「…さぁ…」
「けれど時々思うの。思いきって声をかけてみればよかったかしらって。そうですね≠ニ、たった一言でも」
*
『……雪の音…?』
朝、布団から起きた雪野は凍てつくような寒さに身震いすると窓へと近寄った。
『やっぱり雪降ってる』
こんな中、ツユカミさまは一人でいるのかーーーー?
『…一人は、サムイ…』
脳裏に思い浮かぶ幼少期。ぽつり、と雪野は窓の外を見ながら呟くと、着替えようと動き出した。
「わぁ!?」
隣の部屋から夏目の声が聞こえ、雪野はん?と不思議そうに見ていた。
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