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『貴志君、どうしたの?』

「雪野、キュウ太郎が見つかった!」

『えっ』



窓の外を見ると、露神がいた。



「やはり三ノ塚の山に住んでいる。用心のため丸い鏡を持っていけ」

「丸い鏡…雪野持ってるか?」

『うん、持ってくる』



部屋から鏡を調達して早速三ノ塚へと向かう。



「ーーーーいないぞ。本当にこの辺りで見たのか?」

「ああ、声をかけたら逃げていったがまだそう遠くへは行っていまい」

『でも、この広い森を捜すのは大変そう』

「そうだな。二手に分かれるか?」

「!」



びびっと斑が反応した。



「何かがくるぞ。やばいのがくる」

「何!?そんなのに構ってたらキュウ太郎に逃げられる…ニャンコ先生、頼めるか?」

「喰ってもいいなら」

「妖怪も喰べるのか……?」

『それにしても、キュウ太郎どこにいるんだろ』

「キュウ太郎は陰を伝って移動する。だから木陰の多い山に住んでいる」



そうなのか、と夏目が返事をする前にユラ…と目の端で何かが蠢いたのが見えた。



「まいりました」



ん?とそちらを見ると、いつの間にかソレは近づいていた。



「まいりました」



ゾッ、と血の気が思わず引いた。するとソレは消えて、消えた、と思っていると足下の影が動いた。



「まいりました」

「『!!』」



驚いていた二人だがん!?とその妖の胸元の「参」という字を見てはっとした。



「夏目、雪野、木陰から出ろ。こいつは、強力な力をもつお前らを喰おうとしている」



露神の言葉に慌てて二人は逃げ出す。



「こいつがキュウ太郎!?」

「そう!あいつ!!」

「!!字しか合ってねぇ!!」

『ヘタクソ!!』



キュウ太郎なんて名前まったく似合わない風貌のそいつに、二人はアテになる訳なかった絵を思い出していた。

斑を弾き飛ばされどうしようかと思っていると、鏡だと露神が言う。



「日光の反射で目眩ましを」

「まいりました」

『わかった…きゃあっ!?』

「雪野!?わ、あっ」



鏡を取り出そうとした時キュウ太郎が追いついて雪野を木まで吹き飛ばした。それに夏目が驚いているとキュウ太郎は夏目を力いっぱい握り締めた。



「まいりました」

「う…う…あ、頭…痛…」

『ッ……(なんか…流れ込んでくる)』



ーーーー



「まいりました、まいりました。食べものを頂きにまいりました」



所在なく手のひらを向けていると、はらはらと綺麗な花弁が降ってきた。



「あなた私達と勝負しない?」

「代わりにこの花を差し上げましょう」

「勝てたら、そのあと私達を喰べてもいいわよ。私はレイコ」

「私はミヨです」

「あなたの名前は?」



ーーーー



「夏目!!雪野!!」

「『!』」



斑の声が耳に届き、二人は閉じていた目を見開いた。



『(わかった…)我を護りし者よその名を示せ!』



友人帳から名を割り出すとひっついたままその紙を破りとった。



「う……先…生」



シュ、と夏目とキュウ太郎の間に何かが割って入った。



「さがれ!!」

「ぎゃあ!!」



それは斑で、元の姿に戻ってキュウ太郎に眩い光を浴びせるとキュウ太郎は夏目を離した。



「夏目」



斑は口に咥えていた紙を夏目に渡した。



「(やれる)」



それは友人帳の紙で、ぱんっと夏目は手のひらを打ち合わせた。



「ススギ=Bツユカミ=B名を返そう」



ぐっと噛み締め、ふっと息を吐くと紙から文字が出て行きそれぞれの持ち主へと返っていった。無事に名を返すことはできたが、夏目は体力をごっそり奪われ、そのまま意識を失った。


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