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大急ぎで夕食を済ませた夏目と雪野は部屋で小人の話を聞いていた。



「お食事中驚かして失礼致した」

「『(ちっさ)』」

「む、お前さんツユカミのじじいじゃないか」

「知りあいかニャンコ先生」

「ああ。随分ちっこくなっててわからなかったが」

「む、その声お前、斑か。何だお前さんそのふざけた態は」

「うるさいぞじいさん」

「あはははははははははははは」



面の下から愉快そうな笑い声が聞こえる。



「ニャンコ先生はまねき猫を依代に封印されていたんだ。おれがうっかり解放してしまって…」

『その縁で妖怪について教えてもらうかわり、死後は友人帳を譲る約束なの』

「ほお」

「だからなるべく早く逝っておくれよ夏目、雪野」

「ボッタクリだなニャンコ先生」

「始めていいかとっとと」



さっさと終わらせてくれと二人は思った。



「じゃ、頼む雪野」

『うん…我を護りし者よ、その名を示せ』



友人帳を手に雪野が言えば、ぱらぱらと捲れていたページが一枚立った状態で止まった。



『できたよ』

「これか……ん?」



よく見てみると、紙は二重になっていた。



「あれ?もう一枚ひっついてるぞ」

『ん…とれない』

「本当だ。ピッタリくっついている。こりゃ米つぶだな」

「『米つぶ?』」



斑の言葉になぜ?と二人は反復する。



「こんなずぼらなことするのはレイコだな。大方、飯食いながらいじったんだろう」

「(…ばあちゃん)とりあえずこれ剥いじまうぞ」



ーーーーピピ…ピ.



「ぎゃあ」



夏目がひっついている紙を剥ごうとすると、横から悲痛な悲鳴が聞こえん?と二人はそっちを見た。



「ム、無理に剥がすな。皮膚がびっりびりするぞっっ」



そこにはエビぞりになって痛みに耐えていた露神がいた。ええ?と見ていた二人に斑が説明する。



「前教えただろ。紙を破られれば身が裂ける。紙を燃やされれば身が灰になる。だから皆名を返してもらいたがっている」

「…だそうだ、諦めてくれ」

『ごめんなさい』

「薄情な!!」

「こうなったらひっついてる奴にも同時に名を返すしかないな夏目、雪野」

「『(うわぁ面倒臭そう……)』」

「今日はもうおそい。続きは明日だ。さぁ飲むぞ」

「!?」



その日の夜、人が寝ている上で酒盛りをしていた妖怪二人を追い出す夏目の声が雪野の部屋まで聞こえた。



「出ていけ酔いどれ中年妖怪共!!!」







翌日。学校で寝不足の睡眠補給をした夏目は雪野と斑と共に露神のもとまで向かっていた。



「ツユカミのじいさんはこの先の七つ森に住んでいる」

「こっちに来るのははじめてだな…こんな森の中に祠が…?」

『……ん?』



転がってきた蜜柑に慌てて踏まないように雪野は足を動かし避けた。



『蜜柑だ…』

「落ちましたよ。大丈夫ですか?」



ひょい、と夏目は拾い、落としたおばあさんに蜜柑を見せる。



「あらあら、ご親切にどうも。傷んでなければもらってくださいな。ひとりでは食べきれなくて」

「…あ、ありがとうございます。頂きます」

『どうも…』

「良いお天気ですね」

「そうですね」



それだけ話して、おばあさんは去っていった。そして夏目は密かに、自分が口下手なのを呪った。



「あのばあさんそう長くないな」

「は?」

『なんで急に…』



下から言った斑に二人は怪訝な顔をする。



「あまり美味そうな匂いじゃなかった。」



その理由をする聞いて二人は引いた。



「先生ってやっぱり人を喰べる系の妖怪なのか」

「当然」



誇らしげに言った斑に二人は気をつけようと思った。

七つ森の中に進んで行くと、木の脇にある小さな祠からこちらに手を振る露神の姿が。



「祠に住んでるって……あんた神サマだったのか!?」

『し、知らなかった…』

「(た…祟られる…っつうかレイコさんもミヨさんも何て罰当たりな……)」



昨夜の無礼三昧に顔を青ざめる夏目と雪野にあははははと露神が笑う。



「いやいや、そう呼ばれているが元は祠に住みついた宿なしの物怪だよ」



聞くと、干魃だった村が祈り次の日たまたま雨が降ったため、村人達が「露神」と崇め露神は力が溢れたそうだ。



「私やレイコとミヨが出会った頃は人間くらいの大きさだったな」

「あの頃はな。今ではほとんど人足も途絶えた。信仰で膨らんだ体は信仰が薄れるにつれて縮んだというわけさ」

「『へぇ…』」



そこであ、と思った夏目はコートのポケットから先程の蜜柑を取り出した。



「…蜜柑、あげようか」

「ふふ、蜜柑はもうあるよ」

「ん?」



差し出された蜜柑を見ながら、露神は祠に供えられていた蜜柑を触った。それを見て夏目と雪野はそうか、と先程のおばあさんを思い出した。



「さっきそこで上品なおばあさんに会ったよ」

『その花と蜜柑はあの人が?』



二人に頷いてみせた露神。



「おお。ハナさんというんだ。ここに拝みに来てくれる人だ」

「『へぇ』」




露神に二人は、知らず知らずのうちに笑いかけていた。



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