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その執事、撫養



「熱は下がったようですね」



翌日、シエルの熱はすっかり下がった。



「呼吸音も正常ですし、顔色も昨日よりずっといい。一安心ですね」



ソーマは看病疲れ、ダリアは付き添ったままその流れで、二人ともベッドに突っ伏す形で寝てしまっていた。



「人間にとって最高の回復薬は睡眠だといいますから、起こすのはやめておきましょう」

「では、ソーマ様とダリア様をベッドに運びましょうか」



アグニがソーマを背負い、セバスチャンもダリアを抱えようとしたが引っかかり、持ち上げることが出来なかった。なんだ?と見ると、手がシエルの手を握りしめていた。外そうかとしたが、シエル自身も握りしめていた。



「おやおや」



セバスチャンなら余裕で離せるが、そんなことはせずクスリと笑ってダリアを再びその場に寝かせた。



「セバスチャン殿?」

「お嬢様はこのままでよろしいでしょう。我々は外へ行きましょう」













「ん…暗い…?」



目を覚ましたシエルはがばっと起き上がった。



「今何時だ!?」

「午後7時14分でございます」

『シエル、起きたのね』



ん?と扉の方を見るとダリアとセバスチャンがいた。寝ぼけ眼に服が変わっていることから、つい今し方起きたようで、セバスチャンはそのついでに夕食を持ってきたようだ。



「何故起こさなかった?」

「執事として主人の体を第一に考えるべきだという判断からです」

「『は?』」



顔を見合わせる二人。



「本日のディナーは、3種のきのこのミルクリゾットと豚肉とワインのポトフ。デザートは温めたリンゴのコンポートのヨーグルトがけでございます」



「では坊ちゃん」とセバスチャンはシエルの前にスプーンを。



「はい、あーーーーん」



ーーーーぞわああああッ.



「なんの真似だそれは!?」



大量の鳥肌が二人を襲った。それはもう衝撃的に。



「あ、熱いですか?では私が冷まして差し上げます。やれやれ、困った甘えん坊ですねまったく」

『気持ち悪いにも程があるわよ!!』

「今すぐやめろ命令だ!!」



止める二人にクス、と笑ってみせる。



「病人はめいっぱい甘やかして優しくしてやるものだとソーマ様が。お気に召しませんか?」

「そんな子供騙し(甘え)≠ヘいらん。虫唾が走る」

「さようでございますか。それは失礼いたしました」



それから普通に夕食をすましてシエルの着替えにはいる。



「そういえば」



ベストのボタンをとめながら不意にセバスチャンが口を開いた。



「4時頃タナカさんよりお電話がありまして、本邸の方にレディ・エリザベスがいらしているそうです」

「『なっ』」



思いも寄らなかったことに二人は驚く。



「何故それを早く言わない!?」

「お二人にゆっくりお食事を召し上がって頂きたかったので」

『そんな悠長な…!』

「それによく噛まなくては栄養の吸収率も下がりますし…「おい。あの平和ボケコンビの受け売りも大概にしろ」

「エリザベス様は坊ちゃんにお会いになられるまでご自宅にお戻りになる気が無いそうなので、お早いお戻りをとの事です」

「ったく…ケルヴィン男爵の屋敷は調べてあるんだろうな?」

「ええ。時間がたっぷりありましたので。ロンドンから鉄道と馬車を乗り継いで、丸1日といったところですね」

『貴方なら1時間とかからず行けるわね?』

「ご命令とあらば」



シエルは帽子を、ダリアはケープを着せてもらい歩き出した。



『平和ボケもここまでよ』

「さっさと終わらせて本邸に戻るぞ」

「御意、ご主人様」



部屋から出て行くとソーマがやってきた。



「シエル!また出かけようとしてるな!?」

「『…(うるさいのが来た…)』」

「そんなんじゃ治るモンも治らん「昨日」



言葉を遮りシエルは続ける。



「お前が寝ずに看病してくれたんだってな」

「えっ、あ、ああ」



にこ…とシエルは微笑んだ。



「お前のおかげですごく良くなった。ありがとう」



初めてのことに機嫌良くソーマは笑う。



「そーかあ!!俺のおかげか!やっぱり看病の仕方がいいと治りが違うんだな!「ああ。そんなワケで元気な僕はもう行く。じゃあな」

『笑顔の練習もたまには役に立つわね』

「そーだな」



ーーーーバタム.



「あっ!」



スタスタと横を早足にすり抜けシエル達は出て行った。それからセバスチャンに抱えられて目的のケルヴィンの屋敷へ。



「ここが奴の屋敷か」

「ええ」



溶け切れていない雪の地面に足をおろす。



「どうだ。臭うか?」



問われてセバスチャンは屋敷を見上げた。



「ええ。全員かどうかはわかりませんが、皆さんご無事のようですよ」



ーーーーギイイイィ…



「『!?』」

「当家へようこそ」



屋敷の扉が開かれ一人の男が出迎えた。



「お待ちしておりました。ファントムハイヴ伯爵、ファントムハイヴご令嬢」



その男は、ジョーカーだった。





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