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その執事、醜行



「ーーーーン!!」



ヒヤリと感じた体温にシエルは目を開けた。



「セ…チャン?」

「お早うございます。大分熱は下がられた様ですね。お加減はいかがですか?」

「よくはないが昨日よりマシだ」



咳込みながらシエルは起き上がり隣をみる。



「あいつはもう朝食に行ったのか…ダリアはどうした?」

「お嬢様でしたら『シエル、起きたの?』



セバスチャンが言う前にダリアがやってきた。



「ああ…心配かけてすまなかった」

『構わないけど』

「お水をどうぞ」

「ああ…ン?」

『え?…あら?』



二人はコップを手に持つセバスチャンの手を見て呆れ半分に驚いた。



「お前、手袋はどうした?」

『爪も契約印も丸見えじゃない』

「ああ。少々汚してしまいまして」

「『?』」



ニコ、と笑っていったセバスチャンに、二人は顔を見合わせた。



『そんなことより、私のお使いはちゃんとできたかしら』

「ええもちろん」

「シールリングの持ち主を調べさせたのか?」

『ええ』

「さ。もうここに居る必要はありません。皆さんがお食事をなさっている間に参りましょう。お話は戻ってからゆっくりと」



ダリアが持ってきたシエルの服をシエルに着せ、三人はテントから出た。すると前にウィリアムの姿が。



「私共は用事が済みましたのでお先に失礼します」

「飼い主付きであればどこへ行こうが関係ありません。どうぞご自由に」

『…ご機嫌よう』



去っていった三人の後ろで、ウィリアムはファイルを目にしながら呟いた。



「これで私もやっと安心して移動できます」













「シエル!!ダリア!!」



屋敷に戻った途端ソーマの騒がしい声が出迎えた。



「お前達は俺になんの連絡もなしに、2日もどこへ行ってたんだ!!あと少しで捜索願いを出すところだったぞ!!」

『五月蝿い、怒鳴らないで頂戴』

「お前には関係ない。ゴホッ、ゴホンッ、コンッ」



ん?とソーマはシエルの様子に気付いた。



「お前どうした?顔色が悪いぞ」

「大したことはない、放っておけ」

「大したことなくはないだろう。お前絶対に風邪を引いてるぞ。熱があるんじゃ…」

「ない!平熱だ」

「嘘つけ!!」

「ついてない」

『着替えたらそっちに行くわ』

「は」

「シエル!!」



ーーーーバタン!!

扉が閉められたことにソーマはダリアを見る。



「ダリア!!あいつは絶対に風邪を引いているぞ」

『さあ?本人が引いていないと言うならひいてないのでしょう』

「なんだそれは!はぐらかそうたって」



ーーーーバタン!!

無情にも扉は閉められたのだった。



『まったく』



「五月蝿いったらありゃしない」、とダリアはさっさと着替え始める。



『……』



確かに、シエルのことは心配ではある。だが本人が行くと言っているのだ。だったら心配だろうがなんだろうが、女王の憂いを晴らすことを優先しなくては。



『…いない、みたいね』



廊下の様子をうかがい素早くシエルの部屋の戸を叩く。



『シエル』

「あいつらは?」

『今はいないみたい』

「そうか。セバスチャン、紋章院で調べてきたことを早く報告しろ」

「紋章院…あの刻印の持ち主の事ですね」



シエルの着替えが終わるのを待つ間、ダリアはベッドに腰掛ける。



「ケルヴィン男爵と仰るそうです」

「『ケルヴィン?』」



二人が反応を示す。



「ご存知なのですか?」

『私もシエルも、慈善活動家とやらは好かないから、直接の知り合いではないけど』

「確か、先代に連れられて行ったパーティーで挨拶くらいはしたような…まあいい。名前さえわかれば十分だ。出かけるぞ」

『ええ』

「御意、ご主人様」



と、カッコ良く決めた三人の前にアグニが立ちふさがっていた。



「「『………え?』」」

「ふふふふふふ。甘いぞシエル」



聞こえてきた声にシエルもダリアもげぇ、とその人物を見た。



「俺が守っているこの街屋敷から、簡単に出られると思うなよ!!」



アグニの背後からにょきっ、とソーマが現れた。



「お前は絶対に風邪を引いている。それをこの屋敷の総督であり、お前の親友である俺が見過ごすワケにはいかん!」

「誰が親友だ。ふざけたことを言うな」

「あっ」



プイ、とさっさと歩き出したシエルにソーマはアグニを見る。



「アグニ!!絶対にシエルを通すな!!」

「御意のままに」



迫力満点にアグニが構える。そのことにピキ…とシエル、成り行きを見ていたダリアの額に青筋が。



『いい貴方達…私達には仕事があるわ!貴方達の遊びに付き合ってるヒマはないの!』

「ゴホッ、そこをどけ!」

「病人はベッドで看病されるのが仕事だ!!」

『百歩譲ってそうだとして、さり気に私まで外に出さないようにしているのはなんなの!?』



さっきからソーマはさり気なくダリアの前に立ちふさがっていた。



「お前はシエルの姉だろう!!弟が風邪を引いていれば看病するのが当たり前だ」

『仕事じゃなければね!大体、貴方には関係ないし言われる筋合いもない!』

「僕はお前らとは違う!これくらいの…ッゴホッ、ゲホッ」

「シエル様」



慌ててアグニがシエルに駆け寄る。



「シエル様、どうかベッドにお戻りください。その呼吸音は喘息特有のもの。大丈夫なハズがありません!」

「気安く僕に触れるな!!」

「しかし」

『あーもう。セバスチャン、こいつらをどうにかしてッ』



傍観者になっていたセバスチャンは言われて動き出した。



「かしこまりました」



セバスチャンを出されてはやばい、とソーマが慌てていた時だった。



「ダリア様!!貴方はそれでもシエル様の姉君ですか!?」

「「!?」」

『は…はあっ!?』



いきなり怒鳴ってきたアグニに思いっきり眉根を寄せるダリア。



「本当は仕事なんかよりシエル様がご心配なのでしょう?普段からのダリア様の態度を見ていれば、一目瞭然です」

『だから何?使用人の分際で私に説教?』

「そんなの今は関係ございません!!」



また怒鳴ったアグニにダリアは怒鳴るとは珍しい、と仕方なしに黙る。



「もしシエル様が無理をしたせいで倒れたりなどしたらどうするのです。そうなれば悲しむのはダリア様でしょう」

「コイツはそう簡単に悲しんだりはしないがな」



ボソッとシエルが呟く。



『あーわかったわかった』



もうめんどくさくなってきたダリアは投げやりに言う。



『セバスチャンを止めることが出来たら、もうあとは好きになさいな「セバスチャン殿もセバスチャン殿です!!それでもシエル様の執事ですか!?」

「『ーーーーえ?』」



言い終わるやまた怒鳴ったアグニに面食らう。



「貴方には同じ執事として…いえ、友人として言わせて頂きます」



ダリアの時以上に迫力満点に言う。



「ご主人様のお体こそ第一!今回はたとえ命令違反だとしても、シエル様の体調を思い辛くともお止めすべきだと思いませんか。ご主人様にいつも朗らかで健やかでいて頂く、そのために命をかける。それが、執事の美学というものではないのですか!?」



美学、という言葉が出た瞬間しまった、とダリアはこりゃ仕事できないなと瞬時に悟った。



「主人の望みを叶えるのが私の役目だと思っているのですが…」



「確かに」とセバスチャンはふむ。と納得の顔。



「その様な考えも一理あるかもしれません」

「おまッ…何を納得してる命令がッ!?」

「そうと決まれば病人は寝ろ」

「なっ」

「俺が直々に看病してやる!」

「冗談ッ…だったらセバス…「アグニ!粥と薬湯だ!」

「勝手に…っ」

「かしこまりました」

「シエルとダリアの執事は寝巻きを出せ!あと氷枕もだ!」

「おいッ」

「はい」



で、ベッドにはぶすくれたシエルがいた。



「よし、これで一安心だな!」

「はいっ」



満足げな二人の横では仕方ないと笑っているセバスチャンとダリアが。



「僕は忙しいと言ってるのに…ゴホッ」

『まあまあシエル。こうなったらさっさと治しましょう?』

「お嬢様の言うとおりです。色々と分かってきた事ですし、奴らの言う通り今日位お休みになられてもよろしいのでは?」



ス、とセバスチャンが額に手を当ててきた。



「嗚呼、熱がこんなに…」



冷たくて気持ちがよく、シエルのまぶたがおりていく。



「全ては、明日に致しましょう」





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