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「こらまた、エライ可愛い子連れて来はったなあ。右の子なんか男の子どすやろ?」

「ハイ」



普段着る服とは違う、その辺の子供が着ていそうな服を身につけるシエルとダリア。



「お屋敷ではページボーイをしていました。えーと…フィニアンといいます。こっちはメイドをしていた姉の…リジーです」

「なんや大層な名前どすなあ。まっ、入団したら芸名つけたるさかい」



「ホンマ男の子?」と聞いてきたジョーカーに「ハァ…」と身を引きながら頷く。



「でも、可愛いだけじゃサーカスは勤まりまへんえ。芸ができへんとな。まずは坊、何が得意なん?」

「…ダーツ?」

「ほんならナイフ投げやな。ダガー、ナイフ貸したって」

「ほいよ♪」



気前良く貸されたナイフはなかなかの重さだった。



「ここからあの的に当てるんどすえ」

「!!」



的との距離はおよそ50メートル。



「……」

「あーあー、先輩意地悪っスねぇ。あんな細腕じゃ届きもしないッスよ」

「意地悪おへんよ。近かったらショーにならへんやろ」

「……」



的を見据えると、シエルは勢いよくナイフを投げた。そのナイフは山形に的に届く前に落ちていく。



「あーーーーやっぱり…」



ーーーーカクッ.



「「!?」」



ーーーードスッ.



「「うそォ!?」」



不自然に曲がってナイフは的に直撃。ニヤリとシエルは笑うともう一度構える。その時、セバスチャンの手には小さな小さな小石が。シエルがナイフを投げたと同時に小石を指ではじき、ナイフの柄の部分に当てて的に弾き飛ばす。



「これはこれは……嬢ちゃんはどないどすか?」

『……』



前に出てダガーからナイフを受け取ると、まさかやるとはと驚くみんなの前でダリアはナイフを投げた。シエルよりも短い距離で落ち掛けたが、それもセバスチャンによって的へと命中。



「もういいですか?」



的には投げたナイフ全てが刺さっており、周りからはおおーっと歓声が。



「コントロール力はあるようどすな」

「何で?何で?」



的を見て首を傾げ続けるダガー。



「それじゃあ次はコレ!ジャグリングどす!!」

『……』



ダリアに渡されたピンの数は両手になんとか持ちきれるという数の八本。



「あれ、なかなかの重さッスよ?投げれるかどうかも危ういんじゃ」

「さあ?どないやろな〜」

『……』



気合いを込めるとダリアは一本一本上に投げる。



「「!?」」



落ちてきてもジャグリングのピンは床に落下することなく、何度も何度も空高く上がる。



「あ、あまりの速さに手が止まったままのように見える!?」



実際は小石でセバスチャンが上げているから本当に動かしていないのだが。



「なかなかの素質でありますな〜。ほんなら最後、次は坊にこれや」



シエルが挑むのはこれだった。



「綱渡りどす!!」



あまりの高さに若干引き気味のシエル。



「ドール〜、しっかり命綱繋いどくれやす〜。初心者やし落ちたら危ないから〜」

「ほ、他の演目でテストしてくれませんか?」

「あれ〜〜〜〜?坊、もうリタイアどすか〜?」

「ち…違います。だだ別の方が」

「ほんなら、もたもたせんと早ようヤっとくれやす〜♪」



ぐっ、と唇を噛みしめると、シエルはそっと縄に足を乗せた。

ーーーーぐらっ.



「!!」



ーーーービシッ.



「っ!!」



倒れそうになったシエルだったがすぐにまた起き上がった。



「おーっ、持ち直した持ち直した」

「…」

『…』



ダリアはこいつ絶対楽しんでる…、と隣のセバスチャンを見ていた。



「クソッ、やっぱりか…!!」



流れからしてシエルもダリアも、セバスチャンがするカモフラの方法なんて予想づいていた。



「あ゛〜〜〜〜っ、い゛〜〜〜〜、痛ッ」



倒れそうになる度に、シエルに小石が凄まじい勢いで当たっていた。だがその結果…。



「すごいやん!まさか本当に渡りきるとは思わんかったわ!」

「どうも…」



ジョーカーの後ろではセバスチャンが「プッ…」と笑っていた。



「じゃあ、このカワイコちゃん達は合格っスね先輩」

「まだや」



ダリアと「あとで覚えてろ…」と恨みがましくセバスチャンを見ていたシエルの頭を叩くダガー。そんなダガーの言葉にかぶせるようにジョーカーは言って、二人を指差した。



「坊とお嬢はんには、重要なモンが欠けてるんどす」

「『!?』」

「とびっきりの、笑顔!!」

「なっ…」



笑顔で言ったジョーカーの言葉に絶句した二人。



「はい笑って〜〜〜〜!!」



爆笑したいのを堪えているセバスチャンに青筋を浮かせながらも、そこはぐっと堪えて仕方なく、本当に仕方なく二人は仕事のためだと割り振り笑った。

ーーーーにこっ.

周りに光り輝く花が見えるほど極上のスマイルに声を上げて笑いたかったセバスチャンだった。













「皆はーーーーん。今日から新しい仲間が増えますえ」



メンバー達が集まっている前に、サーカス団員らしく派手に着飾った三人は立った。



「新人のブラック≠ニ」

「ブラックです。よろしくお願いします」



笑顔で挨拶するセバスチャンは大した変わりはなかった。



「そんで、隣の可愛い坊がスマイル≠ナ、ちっこいのがリトル≠ヌす!!」

「『!!?』」



衝撃を受けたように固まった二人にクス、とセバスチャンは思わず笑う。



「みんな仲良うしとくれやす〜」



「はーい」、と学校の様に返事が。



「ほらスマイル、リトル。先輩方にご挨拶を」

「え゛」

『!?』



「にこやかに」、というセバスチャンの言葉にシエルは絞り出すように言って、ぎこちなくダリアは頭を下げた。



「よ、よろしくお願いします…」

「ほらスマイルもリトルもスマイルや!」





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