『どうシエル、くしゃみはおさまった?』
「ああ…」
「『へくしっ』」
馬車の中、セバスチャンの帰りを待っていた二人だったが言っている傍からの、しかもダリアまでもがくしゃみをしたことに二人は首を傾げた。
「『?』」
『私まで猫アレルギー?』
「そんなわけないだろ。風邪か?」
『そんなに薄着ってわけでもないのだけど』
「帰ったらすぐに寝ろ」
『じゃあ一緒に寝ましょうよ』
「わかったわかった」
笑いながら腰に抱きついてきたダリアの頭を苦笑気味になでながらシエルが言っていた時だった。
「『へっくしょっ』」
再びくしゃみを同時にし、二人は首を傾げていた。
「『??』」
「なんだ?僕まで風邪か?」
『誰か噂でもしてるのかしら』
思い当たる人物は数知れずだが…。
「『セバスチャン…』」
二人の頭にその時浮かび上がったのは、セバスチャン。それも悪い噂で、確信はないがいらっとしていた。
『はあ…遅いわねセバスチャン』
「何してるんだ」
「坊ちゃん、お嬢様、お待たせいたしました」
噂をしていると聞いていたのか、と思うほどタイミングよくセバスチャンが戻ってきた。
「『遅い』」
二人同時に言えば、セバスチャンは二人の体制に目を丸くすると、無言でダリアをシエルから離し服装を正す。
「お嬢様、外出先であの様な格好をするのは淑女としてはいただけませんよ」
笑っているのになんか怖い、とダリアは口元をひきつらせながら頷いた。シエルは呆れたように目をそらしながらため息をしていた。
「それで、どーだった?」
「はい」
馬車を発進させると、早速セバスチャンから話を聞くのだった。
「『はぁ?』」
街屋敷に戻った二人は、セバスチャンからサーカス団員に入れてもらうみたいな話を聞いて、眉根を寄せた。
「なんでそういう流れになるんだ」
「何で、と言いますと」
「だから「シエルーーーー!!ダリアーーーー!!」
現れたのはソーマとアグニ。
「遅かったなー!今日の予定は終わったのか!?」
「お帰りなさいませ」
「今日はチェスとやらを教えてくれ」
「僕らがいつそんな命令をした?」
「何か不都合でも?」
『不都合とか不都合じゃないとかじゃないわよ』
三人は見事にソーマをスルーして部屋に向かう。
「今回の件に「なんだ、シエルもダリアもすごい仏頂面だな!せっかく俺が出迎えたんだぞ、ニコッとくらいしろ!」
ーーーーイラッ!
「『五月蝿いッ』」「今忙しいんだ黙っていろ!!」
『邪魔だからあっちへ行って!!』
あーあ、とセバスチャンは一息吐く。
「…笑顔でいないと幸運が逃げるんだぞー…」
んなこと知るか、と二人は苛立ちながらソーマと強制的に別れた。
「だから、なんで僕らまでサーカスに入団させられることになってるんだ!」
「お嬢様」
『今日はシエルと寝るからいーの』
「……。入団させられるのではありませんよ。入団テストを受けて、入団させてもらうんです」
「お前だけ潜入すればいいだろう」
『テント暮らしだなんて冗談じゃないわ』
ベッドに腰掛けながら二人が言えば、セバスチャンは目を細めた。
「それでよろしいのですか?貴方がたの命令でなく、私自らの意志で行動しても?」
「……そうだったな」
苦虫を噛み潰したような顔をして二人はセバスチャンを見た。
『だけど、芸はどうするの?』
「サーカスに必要なのは芸だろう?僕もダリアも、芸などできないぞ」
「でしょうね」
クス、と笑うセバスチャン。
「まあ、せいぜい明日の入団テストを頑張って下さい」
シエルとダリアの着替えを準備し、二人に微笑んでみせる。
「私も執事として、心より応援申し上げます」
「『……』」
胡散臭いその微笑みを一瞥して、二人ははぁ、とため息。
「仕方ない。僕も入団するとしよう」
「御意」
『シエルがいれば十分でしょう。私は留守番《アグニ!雪が降っているぞ》
《明日は積もるかもしれませんね》
《なら、シエル達を誘って遊ぶか!》
『……』
「留守番、なんだ?」
ニヤ、と笑いながら問いかけてきたシエルにダリアは歯噛みして言った。
『は、気になるから一緒に私も入団するわ』
「御意」
初めてソーマがいたことに感謝したシエルだった。
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