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その執事、探訪





ドイツ、ニュルンベルク郊外にて。



「○□▽◎〜#□○?◇■▼☆◎□☆○■!」



強張らせた顔をしかめて手のひらを横に振る男。発せられた理解できない言葉に、シエルとダリアは口元を引きつらせる。



「オイ…セバスチャン、これは何語だ?」

「東フランケン語。ドイツ南部の方言でございます」



二人の後ろでさらりと答えるセバスチャンは理解してる様子。そんなセバスチャンに二人は我慢ならず声を荒げた。



『方言きつすぎでしょ!勉強がほぼ無意味じゃない!!』

「ヒアリングすらできん!!」

「何事も基礎は大切ですよ坊ちゃん、お嬢様」



列車での苦労は何だったのかと思う二人にセバスチャンはまるでわかっていたかのように笑っていた。



「で…なんて言ってるんだ?」



苛立たしくとも、通訳がなくては何も進まない。複雑そうにシエルがセバスチャンに通訳を促す。



「魔女の呪いでおっ死ぬのはごめんだべ。いくら金積まれたって行かねーよ!…と仰っています」

「呪われた人間を見たのか?」

『方言風に訳さんでいい!』

「《呪われた人間を見られた事が?》」



むすっと腕を組む男に、シエルの言葉をセバスチャンが伝える。



「《あるとも!ありゃ酷えもんだったぜ。顔が倍に腫れて、肌っちゅー肌がドロドロに溶けてよォ。一人はすぐに死んじまって、生き残った一人もショックでおかしくなっちまったって話だ》」

「《生き残った人間が?》」

「《ああ。ずっと怯えっぱなしで、『人狼が来る!』って喚いて大変だったらしいぜ》」

「《その方はどちらに?》」

「《ブリーゲル家って村外れに住んでる金持ちの長男だけど、今はいねーよ。伝染病だといけねぇってんで、役人が来て大きい病院に連れてったんだ。死んだ方と一緒にな》」

「『?』」



なんとなく、話が途切れたとニュアンスで感じ取ったシエルとダリアは、なんと言ったのかとセバスチャンを見上げる。



「生き残った者がいるそうですが、錯乱状態が酷く『人狼が来る』と繰り返していたと」

「!人狼を見たというのか?」



馬鹿馬鹿しいなどと思っていた二人は、目撃者がいるという事実に驚きを見せる。



『その目撃者は何処に?』

「役人が他の犠牲者と共に大病院へ引き取ったそうです。国中をくまなく捜してみますか?」

『いえ、いいわ』

「錯乱状態の人間の話しても無駄だ。ならば直接「人狼の森」に行ってみた方が早い」

「ですが、いくら積まれても馬車は出して頂けないようですよ」



首を横に振ったダリアに続けてシエルが言うと、セバスチャンは両の手のひらを上に向け態とらしく肩を竦めて見せる。



「なら、こう言ってみろ」



笑みを浮かべる二人が何を言うのか、既に察しているセバスチャンは次の言葉を待った。



「『馬車の値段は?』」





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