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数日後の夜。ファントムハイヴ家の晩餐の席には、クラウスの姿があった。



『ごきげんようクラウス』

「久しぶりだな。急に仕事を頼んですまなかった」

「なに、かまわんさ!」



先に席についていたクラウスは、ワインの入ったグラスを片手に陽気な声で応える。



「しかし、君達の執事は本当に神出鬼没だな。フィンランドでサウナを楽しんでいたら、急に現れて驚いたよ」

「その節は失礼致しました」



お久しぶりです。なんて笑顔で挨拶をしたセバスチャンは燕尾服のままにも関わらず汗一つ流していなかった。しかも何気に温度を上げるという登場に、クラウスは思い出して愉快そうに笑う。



『貴殿の今回の旅行先が近場で助かったわ。いつだったかは地球の裏側にいたものね』

「ははっ。老人は旅行ぐらいしか楽しみがなくてなあ。さて、じゃ早速ご所望のドイツの土産話をしよう」



話もそこそこに、セバスチャンが料理を運んで来たところでクラウスは話を切り出した。



「ドイツに着いてすぐヤツに会いに行ったんだが、忙しいとソデにされてね」

「ほう?」

「仕方なく現地に向かってみたら、とんでもないド田舎で参ったよ!」



「美味いメシもないし」と、クラウスは眉をハの字にさせて笑った。



「で、死亡者が出た村や屋敷を訪れてみたが、伝染病が流行してる様子もない。なのに持病はない、怪我でもないときた。なら死因はなんだと尋ねたら、全員がこう言った」



ーーーー「魔女の呪い」だと。



「『魔女?』」



シエルとダリアは訝しそうに呟く。



「死亡者は年も性別もバラバラだが、一つだけ共通点があった。死亡する前にある森≠訪れてる」



現地から調達した情報の中から、クラウスは思い出しその森の名を口にした。



「「ヴェアヴォルフの森」。現地じゃ忌み地とか禁足地とか言われてる、オカルティックな森さ」

「ヴェアヴォルフ…人狼の森、ですか」

「ああ」



セバスチャンの呟きにクラウスは頷く。

ドイツ南部は14世紀から17世紀にかけて激しい魔女狩りがあった地域。生き残った魔女達は逃げ延びて、とある森に住み着いた。

そして魔女は自分達を守るため森に使い魔ーーーー人狼を放った。以来その森は「人狼の森」と呼ばれ、足を踏み入れるた人間は魔女に呪われると言われている。



「呪いで人が死ぬだと!?バカバカしい!」

『くだらないオカルトはもう懲り懲りよ…』



顔をしかめるシエルと、うんざりとするダリアにクラウスははははっ。と眉尻を下げ快活に笑った。



「君達ならそう言うと思った!こんな情報しか手に入らなくて悪いね」

「いや、こちらこそ足労をかけた」

『結局は行ってみるしかないようね』

「ああ」



ハァ…と二人揃って仕方ないかとため息をついていたが、シエルは仕切り直してすぐにその表情を引き締めた。



「それから、別件だがもう一つ聞きたいことがある。葬儀屋が消えた」

「ほう。彼がねぇ」



グラスに口をつけながら、表情は変えずとも声は意外そうなニュアンスだ。



『貴殿は先代の頃から付き合いがある分、私達より彼に詳しいはずよ。なんでもいい…情報が欲しいの』

「私達はあまりお互いに干渉しないからなあ」



ウーン、とクラウスは両腕を組んで困惑する。



「それに先代(ヴィンセント)と知り合ったのは葬儀屋の方が先だ。葬儀屋より前に先代に会ってるのは、今はアイツだけだろう。なんせ学生時代からの付き合いだ」

「ならば、任務のついでにあの方を訪問されてはいかがです?」



二人へとセバスチャンは提案する。



「丁度行き先はドイツですし」

「それは良い案だが、ドイツ美人…いや、元美人は身持ちが堅い。上手く口説くんだぞジュニア、レディ」

「僕らが訪れる頃にはご機嫌麗しいことを祈るしかないな」

『そうね』



からかうようにニヤニヤと笑うクラウスに、シエルとダリアはやれやれと軽口。横目にシエルはセバスチャンを見上げた。



「セバスチャン。切符の手配を」



胸に手を当て、恭しくセバスチャンは目を閉じ頭を下げた。



「御意、ご主人様」





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