露店が並ぶ町並みでは、子供の笑い声や老若男女の人々の声で賑わっていた。
「あ゛〜〜〜〜っ。ケツ痛え〜〜〜」
「バルドッ。はしたないですだよ!」
「だってよー。丸一日座りっぱなしだったんだぞ」
シエル、ダリア、セバスチャンの三人が情報収集に出向いてる最中、持ってきた荷物と共に、連れて来られたバルド、メイリン、フィニ、スネーク、タナカは待ちぼうけ。
「しかし使用人(オレら)まで連れてくるなんて珍しいよな?」
「ですだね」
「……」
珍しく会話に加わらず、ぼんやりと荷物に腰掛けて地面を見つめるフィニ。視界にボールが転がって来るのが見え、そのボールはフィニの足に当たり止まった。
「《すみませーん、投げてくださーい》」
「《わかったー》」
手を振る子供たちににこやかに返事をし、ボールを構える。
「《いくよーーーー!》」
ーーーーギュン!
「あ゛っ」
軽く投げたつもりが、思いの外豪速球で子供たちは我が目を疑いぎょっとし、フィニもしまったと笑顔が引きつる。
「《ごめんごめん!》」
大慌てでボールを追いかけて行く子供たちに、フィニは申し訳なさそうに苦笑しながら手を合わせて謝罪した。ん?とスネークはフィニへと振り向く。
「君はドイツ語がわかるのか?ってダンが言ってる」
「あーーーー…うん、ちょっとね」
親指と人差し指で小さな隙間を作りながら、フィニは曖昧に笑って言葉を濁した。
「皆さん」
トッ、と地に踵を軽く打ち鳴らして現れたセバスチャンに、全員の視線が集まる。
「馬車の準備が出来ました。荷を積み込んで下さい」
にこやかにそう指示するセバスチャンの背後には、二台分の馬車が用意されていた。
荷を積み込み、セバスチャンの御者する馬車を先頭に人狼の森へと進入。太陽の光が届くのか怪しい、霧煙る森は色で表すなら黒一色の、温かみを感じない森だった。
「こっ…ここが人狼の森?」
「不気味だよぉ〜〜〜…」
「呪われてるってのも納得だぜ…」
血の気を引かせて顔を青ざめるバルド、メイリン、フィニは、不気味な鳴き声をあげた鳥に悲鳴を上げる。
「コンパスも狂っていますね」
後ろの騒がしい声には見向きもせず、セバスチャンが見下ろすコンパスの針はクルクルと回転を繰り返している。
「鉱物資源でも埋まってるのかもな」
「呪い、かもしれませんよ」
慌てる事なく冷めた様子で答えていたシエルと隣のダリアは、振り向いたセバスチャンの雰囲気を添えた言葉にため息をこぼす。
『えええ…』
「お前まで何を…」
「悪魔を従え死神に相見えた貴方方が、呪いを信じないのも可笑しな話です。それに、私と貴方方を繋ぐものだって、一種の呪いですよ」
シエルの右目、ダリアの首筋、そしてセバスチャンの左手の甲に刻まれる、同じ逆ペンタクル。それは契約書でもあり、執行力を持つ代わりに絶対に逃げられない証でもある。呪いと言えば、呪いだろう。
「だが実際の魔女は、デタラメな裁判で濡れ衣を着せられたただの人間。本当に空を飛んだり、嵐を呼んだりしたわけじゃない」
『私やシエルも、目の当たりになんてしたことないわ。呪いなんて超常的な能力…信じる方がおかしいわよ』
強気に答えていた二人だが、そこまで答えて顔を見合わせると、複雑そうな表情をした。
「…と、思う…」
『のだけど…』
「さあ、どうでしょう」
少し自信を無くした様子で、言葉を尻込みさせる二人にクスッとセバスチャンは笑ってはぐらかす。
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