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「わ〜〜〜っ」



先を行く馬車の後方をスネークの運転で進むのはバルド、メイリン、フィニ。嬉しそうな声を上げたフィニは、子供のようにキラキラと目を輝かせて、空高く聳える時計塔を見上げた。



「すごいでっかい時計!」



フィニの後ろでメイリンも楽しそうに時計塔を見上げる。



「ありゃビックベンっつーんだ」



説明したバルドに対するフィニの感想は、強そう、だった。



『あの橋(タワーブリッヂ)はいつ完成するのかしらね』



使用人達がビックベンの話題で盛り上がっていた時、馬車の中でダリアは窓から見つけた建築途中の橋を見て呟いた。



「坊ちゃんがお生まれになった頃に計画され、着工したのは3年前。完成にはまだまだかかるでしょうね」



ダリアの呟きに答えたセバスチャンの言うとおり、橋は骨組みすら完成しておらず、完成する目処は見当たらない。それを見てセバスチャンの感想。



「人間とは寿命が短いくせに、のんびりした生き物です」

『悪魔(貴方たち)と違って、利権やらしがらみやらがあるからね』



やがて馬車が停止した場所は眼鏡屋。まずはメイリンの買い物からだ。



「どう?」



カウンターを挟んで店員がメイリンに尋ねる。



「あっ…」



レンズを通した世界はとてもクリアに見え、ダリアやこちらに手を振るフィニの姿もハッキリと見える。ボヤけていた視界からの脱出に、メイリンは嬉しそうに笑った。



「すごく良く見えますだ!」

「ではそれを」



最終確認として、セバスチャンは隣のメイリンの顔を覗き込んだ。



「いいですね?」



間近でクリアに見える、セバスチャンの端正な顔。



「ふああ〜っ。見えすぎもまずいですだ〜ッ」



顔を真っ赤にさせてメイリンは椅子から転げ落ちてしまった。

次に訪れたのは帽子屋。フィニの帽子を買い物だ。



「何かお探しですか?」

「ビックベンみたくかっこいい麦わら帽子くださいっ」

「え?」

「普通ので結構です」



戸惑う店員に鼻息荒く本気の顔で伝えていたフィニの頭をセバスチャンは片手で鷲掴んで訂正。要望が通ればどんな帽子を買うことになったのだろうか。



『貴方達は何か欲しい物はないの?』



ものはついでにと、帽子を物色しながら尋ねたダリアにバルドとスネークは窺うように互いの目を合わせた。

そして、スネークが蛇を介して欲しいと申したのは鞄だった。早速鞄の専門店に出向いたのだが、スネークが女性の店員へとご所望したのは大きな肩掛けバック。



『そんな大きいのがいいの?』

「うん」



満足そうに鞄を大切そうに抱えるスネークが頷く。



「これなら皆連れて歩けるわい。ってワーズワスが言っ「「キャーーーーッ」」



にゅるん、と鞄から頭を出した蛇に絶叫する女性の店員。と、一緒になってバルドまで涙目で絶叫していた。

次に向かった先は書店。



「お嬢様!こーゆーのはアリですかィ!?」



振り向いたダリアに嬉々としてバルドが持ってきたものは、大人の男性向けのセクシーな雑誌。



「却下です!何てものを見せるんです!」

「ちえーーーー」



ダリアの目を手で目隠ししながら即答したセバスチャンに、バルドは残念そうに渋々と雑誌を元の場所へ。



「まったく…」

『ん?』



高さも厚さも様々な本が並べられた本棚から、見つけた著者名にダリアはその一冊を手にとった。



『歴史小説ね…』

「おや、それは…」



ぱらぱらと流し読みするダリアの手元にある本をセバスチャンへ見下ろす。



「以前お世話になった、アーサー先生の御本ではありませんか」

『歴史小説はいつでも描ける。先生は今、探偵小説を書くべきだと思うけど』



閉じた本を「ん」とダリアはセバスチャンの手へと押し付けた。クスッとセバスチャンは笑う。



「と、仰る割に買われるのですね」

『シエルへの手土産よ』

「かしこまりました」



続いて、ダリアの所望で向かった先は、甘いお菓子が売られるお店。煙草を吸うためと、あまり興味のないバルドは外で待機。



「お嬢様、今召し上がると晩餐が…」

『シエルへの手土産よ』

「何でもかんでも、坊ちゃんの為と言えば罷り通ると思わないでください」

『じゃあ、市場調査よ』



じゃあって…。手元の受け取り皿に次々とお菓子を乗せていくダリアに、セバスチャンは困り顔で呆れる。棒付きキャンディへと手を伸ばしていたダリアは、視界の隅に見つけたものへと手を伸ばした。



『バルド』

「へい」



ひょいっ、と店の中から姿を見せたダリアに、バルドは何かと顔を上げる。



『やる』

「おっ、おおっ!?…飴?」



投げやられたものを驚きながらもキャッチしたバルドは、投げられた箱入りの飴を不思議そうに見下ろす。



『貴方にだけ何もないのもね。タバコは程々にしないと、舌がバカになるわよ』



棒付きキャンディもしれっと手にし、早速食べながらダリアは言う。タバコ繋がりで投げ渡したキャンディは、シガレットタイプのもの。



『貴方、シェフでしょ』

「!」



目を丸くさせ面食らっていたバルドだが、すぐに嬉しそうにはにかんだ。



「へい、ありがとうございやす!」





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