×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
2





沈黙が下りた室内で、ふと顔を上げたセバスチャンは懐中時計を取り出し時間を確認。



「今日はこの位に致しましょう。お嬢様」



ん?とダリアは顔を上げる。



「今朝もお伝えした、百貨店で展開中の新部門の視察…そろそろお時間です」

「ああ…アレか。余計な経費は出さんぞ」

『いらん』



ニヤニヤと笑うシエルにチッと舌打ちしながらダリアは苦々しい顔をする。



「それとお嬢様。お嬢様に少々お願いが」

『ん?』

「大分度が合わなくなっているメイリンのめがねと、つぎはぎの目立つフィニの帽子を新調したいのですが」



台所で目についていた事をセバスチャンは早速お願いする。



『いいわ。なら今日はあいつらもーーーー』



ーーーードドドドドド.

廊下を荒々しく走る音が、部屋に近づく。

ーーーーバーーーーン!



「シエルーーー!!お前達どういうつもりだっ!」

「げっ」



お怒りで部屋へと怒鳴り込んできたのはソーマ。思わず本音を込めた声がシエルから漏れるが、構わずソーマは目を吊り上げてシエルの華奢な肩を掴み前後に揺さぶる。



「俺に何も言わず学校をやめるとは!」

「おっ、お前はそのまま卒業までいればいいだろう?社会勉強にちょうどいい」



気迫に押されながらも適当に誤魔化してシエルが話を終わらせようとすると、ソーマはふんっと腕を組んだ。



「お前がいないとつまらん!ダリアもいつの間にかやめてるし。それに」



ソーマはシエル、ダリア、セバスチャンを驚愕させる一言を。



「あそこの勉強は簡単すぎる!!」

「「『えっ?』」」



目から鱗。ぽかんとフリーズする三人に「俺が子供の頃やってたヤツだぞ」とソーマがトドメをさす。



「い…意外すぎる」

『とてもそーは見えない…』

「腐っても王族。英才教育ですか…」

「そうなんです!!」



明るい声に三人は振り向く。



「王子の秀才ぶりは、宮廷教師の自慢でしたから!」



ナマステジー、と挨拶しながら誇らしげな笑顔でやって来たのはアグニだった。



「シエル〜きいてるのかーっ」

「うざい…」

『貴方も来てたのね』

「はい!お久しぶりにお目にかかります」

「お久しぶり…?」



ん?とセバスチャンは思い出す。



「ついこの間、ウェストン校でお会いしたじゃありませんか」

「え゛、え゛えええ!?」



セバスチャンの言葉にアグニは誇らしげな笑顔から一変、驚愕に血の気を引かせ絶叫。



「ソーマ様が入学されてすぐの頃…」





「ヒマだ!シエルの所に遊びに行くか!」



切り替えが早いソーマは深紅の狐寮・厩舎の隣にいた象のもとへ。

その様子を、ひっそりと草陰から見つめる人物が。



「(いけませんソーマ様!!夜間外出は校則違反です!まだ初日ですよ!!ああ、でも私は留守番を命じられた身。今出ていくわけには…でも!!)」



そわそわハラハラあたふた。忙しなく一人百面相を繰り広げソーマを見守っていたのはアグニ。

ーーーーガサッ.



「なんだ!?ネコか!?」



茂みが風もないのに音を立てて揺れた。その正体はアグニだ。アグニが立てた音に象は怯えてビビってしまい、暴れ出してしまった。



「ああああああそっちじゃな〜〜〜〜い!!」

「(ああああああソッ、ソーマ様〜〜〜!!)」






「ーーーーって事があったじゃありませんか」

「えっ、いやあのそれは!!」

「クリケット大会にもいらしてましたよね?」

「へえ゛ぇ゛ッ!?」



あたふたと弁明しようとしていたアグニにニコッとセバスチャンはわざとらしく笑顔を浮かべた。



「私が赤寮に特製パイを差し入れ≠ノ行った時ーーーー」





「こりゃ余裕で赤寮の勝ちだな!」

「わかってたことだろ?」



目を盗み造作もなくセバスチャンは自身が持っていたモノとパイをすり替える。



「お前らしゃべってないで早く用意…あれ?ここにあったミートパイは?」

「(な…なんということだ…!!!)」



衝撃やショックにアグニは表情を強張らせる。

ーーーー王子が牛肉パイを召し上がれず悲しまれるかと思い、こっそり鶏のパイを焼いてきたというのにーーーー。



「(セバスチャン殿に先を越されるなんて!)」



ショックを受けるアグニは机の下に潜んでいた。

ーーーー今は敵である王子の食にまで気を配るとは。流石ですセバスチャン殿。



「(しかしせっかく焼いてきたので王子に召し上がって頂きたい。王子はきっと一番大きいものをご所望されるはず)」



ーーーー神よ。身勝手な私をお許し下さい。

セバスチャンへの感動や先を越された悲しみや身勝手な自分に涙を飲みながら、目を盗みこっそりとパイを紛れ込ませる。



「一番大きいのをくれ!」



狙い通りでほっとアグニは安堵した。






「ーーーーって事もあったじゃないですか」

『だからアイツだけピンピンしてたのか…』

「過保護め…」

「あばばばばばセセセセセバスチャン殿それは…!!」

「ア〜〜〜グ〜〜〜ニ〜〜〜〜〜〜」



もう泣きながら必死に言い訳をしようとしていたアグニだが、背後からのドスの効いたソーマの声に追い詰められた。



「俺の言いつけを破ったのか!?」

「申し訳ありません。ですがどうしても心配で〜っっ」



ぎゃーぎゃーと揉める二人にシエルは頭が痛そうにため息。その後ろで、ダリアの髪をアップにするセバスチャン。



「俺はそんなに信用が…あっ!!」

「!」



素知らぬ顔で外出準備を終えたダリアは同じ素知らぬ顔のセバスチャンと共に部屋の外へ。振り向いた二人はすちゃっと手を上げた。



「では、私共は少々外出致します」

『留守番は頼んだわよ』



気づいたシエルとソーマ。何もかもをシエル一人に任せて逃げるように二人は出て行った。



「僕一人に押し付けるなーーーーっ!!!」



怒声なんて聞こえないフリだった。





_185/212
[ +Bookmark ]
PREV LIST NEXT
[ NOVEL / TOP ]