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ーーーーその後、事の顛末を女王に報告。P4に下された処分は、牢獄送りではなく放校処分だった。

温情ではない。女王の血縁者が死亡。しかも原因は本人のトラブル。そんな一大スキャンダルを隠蔽するためだ。だが人命より学園の伝統を選んだ彼らだ。死よりも辛い処分かもしれない。

デリック達はボート遊び中の事故で死亡したことになり、死体は秘密裏に埋葬された。関係者には堅く箝口令が敷かれ、ウェストン校では表向き、何一つ変わらない日常が続いている。



「あっ。見て、新しいP4だ!」



移動中だったマクミランはぱぁっと表情を輝かせた。



「憧れちゃうな〜!」



新しくP4となったのは、寮弟であったエドワード、チェスロック、クレイトン、ハーコートは二年生なので、赤寮だけは別生徒が引き継いだ。羨望の眼差しを受ける四人。誇らしそうにする赤寮の監督生と違い、全てを知る三人の表情は浮かないものだ。

監督生しか踏むことを許されない、緑の芝生。ずっと憧れていたその芝生へと、エドワードは踏み出した。サクッと伝わる、コンクリートとは違う柔らかな感触。しかし、胸に込み上げるような感動などなく、その表情は複雑そうに、ただ芝生を見つめていた。











女王の秘書武官兼執事であるWチャールズを控えさせた部屋で、シエルとダリアはヴィクトリアと報告も兼ねてお茶をしていた。



「ーーーー死者蘇生?」

「信じて頂くのは難しいと思うのですが…」

「私は貴方達の言葉を疑ったりしないわ」



ニコッと笑顔を浮かべたヴィクトリアに、シエルとダリアは信じる様子などなくただ右から左へ聞き流した。



『死者を蘇らせ操る…恐ろしい技術です。もしかしたら、英国にとって脅威となるやもしれません』

「ぼうや、スモールレディ。これからもその可愛いお鼻をひくつかせておいて」

『もちろんです』

「何かわかり次第、すぐご報告します」



話を終えたシエルとダリアは、待機していた馬車へと歩み寄り、セバスチャンが開けた扉をくぐる。最後にセバスチャンが乗り込み、シエルが杖の頭で合図を送ると、馬車は動き出した。



「お疲れ様でございました」

「全くだ。早く帰って甘いものが食べたい」

「戻ったらすぐにご用意致します…ああ、そうだ。出がけに郵便屋から預かりました。お屋敷までのお暇潰しに」

「ん?」



懐からセバスチャンが取り出した手紙を一瞥してシエルはすぐに興味をなくす。



「いらん。捨てておけ」

『あら…いいの?号泣しながら見送ってくれてたトモダチからなのに』

「いい」



差出人の名前を眺めながらダリアが態とらしく言うも、シエルは挑発に乗らずすました顔だ。



「僕はあの窮屈な箱庭に戻ることは二度とない」

「左様でございますか」



ダリアから手紙を受け取りながら、セバスチャンは満足そうにも見える笑みを浮かべていた。

ーーーーベエェ〜〜〜.

そして、屋敷に戻って見てシエルとダリアは絶句。



「『……』」

「なんです?これは…」



久方振りの屋敷には、必ず何かが待ち受けている。それを知っているセバスチャンは予想していたが、何がどーなってそーなったのかと理解不能のように、羊で溢れかえる光景を眺めていた。御者は呆然と困惑してしまっている。



「あっ。坊ちゃん、お嬢様、セバスチャンさん、おかえりなさーい!」

「おかえりなさいvってエミリーが言ってる」

「サムじーさんの農場の柵が壊れちまったらしくてよ」

「ギャーッ。スカート食べちゃダメですだ」

「ほっほっほっ」



もうなんだか大騒ぎ。そのうち一匹が群れから離れて走り出した。



「あっ。野郎ハーブ園に!ってワイルドが言ってる」

「わ〜〜〜っ。ダメダメ。まてーーーーっっ」



大惨事になる前に羊を追いかけ始めたフィニとスネーク。地を蹴る拍子に、土と共に芝生の草が飛び交う。



「ふっ」



急に可笑しそうに吹き出したシエルに、ダリアとセバスチャンは不思議そうにする。



『どうしたのよ?』

「いや…」

「わーーーーとったどー!」

「大人しくしやがれ!ってワイルドが言ってうぐ」



シエルが顔を上げると、ちょうどフィニとスネークが羊を捕まえたところだった。



「芝生は、ただの芝生だよな」


暴れる羊を捕まえるフィニとスネーク。衝撃に草が飛び交う様に笑っていたシエルは、後ろ手にひらりと手を上げた。



「さっさと片付けてアフタヌーンティーを」



屋敷へと戻るシエルとダリアの背中に、セバスチャンは胸に手を当て腰を曲げた。



「御意、ご主人様」



羊を片付けひと段落終えると、セバスチャンはアフタヌーンティーの準備のため台所へと向かった。



「今日は何を作りますかね」



脱いだ上着から、マクミランから届けられた手紙を抜き取る。中には手紙の他に、写真も添えられていた。



「おや、中々良く撮れているじゃありませんか」



ボートパレードの際に撮った集合写真だった。セバスチャンが言うように、シエルもいつもの仏頂面ではなく周りと一緒に笑顔を向けており、思い出の一枚としてはベストショットだ。

ーーーークシャッ.

褒めたばかりの写真を躊躇なく握り潰したセバスチャンは、マッチで火を付けると火種として使った。



「ーーーーさて」



写真を火種とした炎を尻目に、セバスチャンはエプロンの紐を結ぶ。



「とびきり甘いケーキを焼いて差し上げるとしましょう」





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