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ーーーーダメだ!!

一瞬の思考からセバスチャンは判断すると、僅かに焦りを見せて塀に立つ葬儀屋と、扉で待つダリアと走るシエルを見た。



「(この距離では、私より彼の方が二人に近い!)」



ーーーーならば。

ハーコートがテーブルにぶつかった際に落下したティーカップが、地面に甲高い音を立ててぶつかった。

ーーーードゴォッ.

アガレスの体を抱えると、抱きつかれた状態のままセバスチャンは背中を仰け反らせ、アガレスの頭部を地面に打ち付け動きを止める。



「(契約者を守る方が先決ーーーー!!)」



すぐさまシエル達へと駆け出したセバスチャン。



「さすが執事くん」



茶化されるように、隣を過ぎる葬儀屋にセバスチャンは視線だけを送った。殺気のこもった忌々し気な眼。捕まえたくとも捕まえられないセバスチャンを嘲笑うかのように、葬儀屋はうっすらとした笑みを向けた。



『!?』

「セバスチャン!?」



葬儀屋を捕らえろ。そう命じたシエルとダリアは、捕らえるどころか此方へと戻ってきたセバスチャンに驚く。



「これからもその忠実さで、二人を守っておあげ」



月をバックに塀へと着地した葬儀屋が「ヒッヒッ」と笑う。



「またね〜〜〜〜」



月を持ち上げるように両手を上げ腰を振った葬儀屋は、ニンマリとチェシャ猫のように笑って姿を消した。またしても、葬儀屋を捕らえることは出来なかった。



「おいセバ…」

「お下がり下さい!」



飛びかかってきたソレを、セバスチャンは二人を後ろに下げ顔面から鷲掴む。



「セバスチャン、なぜ戻ってきた!?」



納得のいかない二人はセバスチャンの背中を睨む。



「奴を捕らえろと命令したはーーーー「契約上最優先されるべきは、貴方方の命です」



シエルの批判の声を遮るセバスチャン。



「せっかく育ててきたんです」



メキメキとソレから骨の限界を訴える音が鳴りだし、血が流れ出す。ゆっくりと、セバスチャンは肩越しに振り向いた。



「掠め取られてはたまらない」

「『…ッ』」



月明かりの逆光によるものか。ソレから飛び散る血飛沫のせいか。

いや。悪魔特有の、悪魔だからこそのその目と威圧。読めない表情で無機質に見下ろすセバスチャンに、シエルとダリアは確かに恐怖を感じた。



「あ…」

「あっ、オイ!」

『ちょっと!?』

「眠って頂いたままの方がよろしいかと」



恐怖を感じたのも束の間。耐えきれなかったらしいハーコートがとうとう気絶。ギョッとするシエルとダリアと違い、セバスチャンは慌てることなく動きを止めたソレから手を離すと、前を見た。



「お茶会の後始末は、まだ終わっていませんから」



その後始末も、ものの数分でセバスチャンは終えてしまった。美しかった庭は、転がる死体と鮮血に見る影も無い。



「やれやれ。陛下にはなんと説明したものかな」



頬に着いた返り血を拭いながらシエルはぼやく。



「そのままお伝えすればよろしいのでは?」



汚れた手袋をスペアに変えながら、セバスチャンはすました顔で言う。



「『悪趣味な元死神が死者を蘇らせている』ーーーーと」

『それ…本気で言ってる?信じてもらえるわけがーーーー「シエル!!ダリア!!」



避難誘導を任せていたエドワードが戻ってきた。



「全員無事に避難したぞ…」



剣を片手に庭へと飛び込んだエドワードは、爪先にぶつかった何かを見下ろした。気づかず蹴ってしまったのは、デリックの仲間であった生徒の死体。



「こっちも片付いた」

『足元気をつけなさいよ』

「…ああ」



足を退けたエドワードは、顔をしかめ唇を引き結んだ。



「…シエル、ダリア。俺は恐ろしい」



俯くエドワードをシエルとダリアは何かと見る。カタカタと、剣を持つエドワードの手が小刻みに震え始めた。



「このままでは俺も、監督生達のようになっていたかもしれない」



青ざめた顔を苦しそうに歪ませ、両手で剣を握り締めたエドワードは体全体を震わせた。



「人を殺した罪を、正義と勘違いするような人間に」

『……それが恐ろしいと思えるなら大丈夫よ』

「ああ。お前はまだ正常だ」



自嘲じみたように笑っていた二人を、セバスチャンが横目に見つめた。



「僕らと違ってな」



真っ白だった月下美人は、鮮血に濡れてしまっていた。





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