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「今回のお代で教えられるのは、このくらいだねェ」



「さて」と葬儀屋が席を立つ。



「厄介な連中に嗅ぎつけられると面倒だ。小生はそろそろ行くよ」

「そう何度も逃がすか!!」



背を向ける葬儀屋に、シエルとダリアはセバスチャンへと命じた。



「『捕らえろセバスチャン!』」

「御意」



二人の命令に飛び出したセバスチャンだったが。

ーーーーガキィッ.



「…やはり」



フッとセバスチャンは、行く手を阻んだ相手に目を細めた。



「貴方も亡くなられていましたか。アガレス先生!」



メキメキと骨の軋む音を鳴らしながらセバスチャンの拳を止めるアガレスの額には、横一直線の縫い目があった。



「あの時の違和感はそういう事だったのですね」



アガレスが階段から盛大に転げ落ちた時。貸した手に触れたアガレスの手から感じた違和感の正体が、やっとわかった。



「その子は素材が充実しててね」



ストッ、と葬儀屋はセバスチャンをアガレスに任せ、塀の上へと着地する。



「小生の最高傑作なんだ。今のトコね」



ーーーーぱちんっ.
ーーーーザバァッ.



『『『!?』』』



葬儀屋が指を鳴らした瞬間、ソイツらは地面を突き破った。

ーーーーガッ.



「!!」



それと同時にアガレスが手足を巻きつけるようにして、セバスチャンを羽交い締めにした。



「グリスマス…キュウカ…」

「クリケット…ヤロウゼ…」

「こいつら、デリックの仲間か!!」



デリックやアガレスだけでなく、あの日居合わせた全員が動く死体へと変わり果てていたのだ。庭に腐臭と、異常な空気が充満する。



「走れ!!」



鋭いエドワードの声が庭に響く。



「庭を出ろ!早く!!」



負傷するグリーンヒルに肩を貸しながらエドワードが叫ぶと、弾かれたように一斉に庭の外へと走り出す。



「『!』」



次々と庭の外へと逃げ出した生徒達に、これで全員かと庭を見たシエルとダリアは目を見張った。



「あ…あしが…っ」



恐怖に腰を抜かしたハーコートは地面に座り込んでしまっていた。逃げようと足を動かそうとするも、体全体が震えてしまい力が入らない。



「クリケット…ヤロウゼ…」

「ひっ…」



目前まで迫るソレに、ハーコートは涙を流し顔面を蒼白にさせるしかない。

ーーーーバン!



「来いッ」



入口からハーコートに向かうソレ目掛け銃を撃ったダリア。その隙にシエルがハーコートの腕を掴み無理矢理立たせた。シエルに腕を引かれ、ハーコートはテーブルにぶつかりながらもなんとか足を動かす。



「ヒヒッ。同じ血族(ファントムハイヴ)でも、先代達とは違うねェ…面白い」



ハーコートを自らの手で、危険も顧みず助けるシエルに葬儀屋が愉快そうに笑う。



「随分と余裕ですね。この程度で私を足止め出来るとでも?」



力いっぱい締め付けているだろうアガレスだが、セバスチャンは痛がる様子も苦しむ様子もなく、平然としたまま傍観する葬儀屋を見上げた。



「甘くみられたものですね」

「甘くなんてみてないさ。ただ、何が目的(ゴール)かの違いさぁ」



そう言った葬儀屋の視線が、自分から外れた。その視線の先に何があるのか、言葉の意味とはなんなのか。セバスチャンはすぐに感づいた。



「(まさかーーーー)」



ハーコートがテーブルにぶつかった際に落下したティーカップが、地面に甲高い音を立ててぶつかった。

ーーーードゴォッ.

アガレスの体を抱えると、抱きつかれた状態のままセバスチャンは背中を仰け反らせ、アガレスの頭部を地面に打ち付け動きを止める。

上着の内側に卒塔婆を出現させた葬儀屋は、自由の身となったセバスチャンへと攻撃。空中へと飛躍し避けたセバスチャンは、落下速度も利用して葬儀屋へと殴りかかるが、葬儀屋もそれを飛躍して避ける。

地面は抉れ、衝撃に薔薇の花弁が辺りに舞い散る。

避けた葬儀屋の姿をすぐに目で追うと、ダリアが待つ扉へとハーコートの手を引くシエルの姿が目に入った。そのすぐそばに、葬儀屋の姿もある。すぐさま銀食器のナイフをセバスチャンは構えるが、葬儀屋が背中から卒塔婆を取り出す。次には卒塔婆は、葬儀屋のデスサイズである鎌へと形を変えていた。

セバスチャンの攻撃を受ける前に葬儀屋はデスサイズを大きく横へと凪ぐように振るった。上半身だけで避けたセバスチャンの目に映ったのは、舞い散る薔薇の花弁と、シエルを片腕に抱き、デスサイズをダリアへと添えて得意気に笑む葬儀屋だった。





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