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愉快そうな紅茶色の瞳とクロードの金色の瞳がかち合った。



「セバスチャン・ミカエリス」



正体を暴かれたにもかかわらずセバスチャンは優雅に笑みを浮かべたまま、クロードを見つめ返した。再びクロードがナイフを投げたが、セバスチャンはコートを脱ぎ払いそれでナイフを防いだ。



「あ!」



それと同時にセバスチャンは油断していたアロイスの手から紅茶の缶を奪い、コートに気を取られているクロードの横をすり抜け上へと走る。



「逃げたぞ!」



コートをすぐさま取り払ったクロードはセバスチャンに向かってナイフを投げつつ後を追いかける。



「殺すな!殺しちゃダメ!」



走りながらメガネを外すクロードの背中に、アロイスが叫ぶ。



「捕まえてクロード!」



走っていたセバスチャンは飛んでくるナイフを見て、トランクを背後に庇い自分を盾にした。



「そのトランクが命より大事と」



反応を返さないセバスチャンを見て、クロードは肯定ととった。



「ならば!」



手裏剣よろしくに投げられてきたお皿をセバスチャンは避けて廊下へと走り出す。時折キョロキョロと視線を動かしながら走ることから、何か探しているようだ。

ーーーーガチャ.



「!!しまっ…!」



トランクを手に走っていたが、留め具が緩んでいたのかトランクが衝撃に開いてしまった。慌ててセバスチャンは中身が落ちないようにバランスを崩しながらも座り込む。開いてしまったトランクの中身を見て、追いついたアロイスは目を見張った。



「シエル・ファントムハイヴ…!?」




トランクの中には膝を抱えた、一見して人形と見紛うような青碧色の髪をした少年が入っていた。それを見てわあ、とアロイスは嬉しそうな声をあげてクロードの隣まで走る。



「やっと手に入れた!シエル」

「そうはいきません!」

「あっ…!」



自分に刺さっていたナイフを抜き取るとセバスチャンはアロイスに向かって放った。だが、クロードがそのナイフを掴み取り止める。その間にセバスチャンはトランクを閉めて立ち上がる。



「貴方には触れさせませんよ。貴方のような薄汚れた、下等な品性をお持ちの方に触れられたなら、坊ちゃんが穢されてしまいますから」

「なに!?」



駆け出したセバスチャンは廊下に置かれていたワゴンに飛び乗った。まるでスケボーのように巧みに操りスピードを出して廊下を進んでいく。



「料理を運ぶ道具に土足で上がるとは、執事にあるまじき行為!」

「何を仰る。私はあくまでーーーー」



不自然に言葉を切ったセバスチャン。



「……いや、これはまだ早い」



口に人差し指を当てていたセバスチャンは、前方に見えてきた扉を見て笑みを浮かべた。



「クロードあいつを止めて!あの部屋はっ」



クロードが投げたナイフを左右に避けながらセバスチャンは真っ直ぐに部屋へと近づいていく。

ーーーーバァンッ.

ワゴンで突っ込みながらセバスチャンはドアを蹴破った。



「嗚呼…見つけましたよ」



月明かりだけの薄暗い部屋。その中央にある天蓋付きのベッドに横たわる少女を見て、セバスチャンは笑みを浮かべ囁いた。



「お嬢様」



背後から飛んできたナイフを飛び上がり避けると、少女の眠るベッドの傍に着地する。



「ダリアが!」

「私のお嬢様は返して頂きます」

「させるか」



片腕に少女を抱き抱えたセバスチャンは向かってきたクロードの攻撃を避ける。ガッ、とセバスチャンがアロイスに向かって足で棚を蹴り飛ばした。



「!」



もちろんクロードは主であるアロイスを守る方が先決。そのすきにセバスチャンは再びワゴンに乗って部屋を出て行った。エントランスまで出ると、セバスチャンは器用なバランス感覚で手すりにそってすべりおりていく。



「セバスチャン・ミカエリス!」



クロードも反対側の手すりから器用に滑り降りていく。それを見てセバスチャンは微笑むと、バッとワゴンから飛び上がりシャンデリアに飛び移った。



「貴方のやり口はこうですね」



床に着地したクロードは見下ろすセバスチャンを見上げる。



「昼を夜に、砂糖を塩に、濃紺を金色に」



「ならば私は金色を…」とセバスチャンは胸に手を当て言った。



「黒に…!」



ーーーーガシャーンッ.



「うわあああッッ!」



光が消えて、闇に包まれる。金色が、黒に染められた。



「暗い…怖いよクロード…」

「灯りを!」



クロードの声の後、蝋燭に火がついた。続いて蝋燭を手にハンナ、最後に三つ子の執事が蝋燭を手に現れた。



「はあ…はあ…」



床に座り込みアロイスは肩で息をする。

ーーーーバリーンッ.



「!」



響き渡った甲高い音にバッと顔を上げると、セバスチャンが窓を割って逃げていくところだった。



「追いかけて!早く!」



ハンナと三つ子が走り出し、クロードもそれに続こうとしたのだが…。



「クロードはダメ!」



クロードがつんのめった足に驚きながら見下ろすと、アロイスが足にしがみついていた。



「行かないで!」

「ですが…」

「…かないで…行かないで…」



ーーーー「一人にしないで」

脳裏によぎる、昔の記憶。



「俺を一人にしないで、クロード…お願い……」

「……旦那様」



涙を流すアロイスに目を丸くしていたクロードは、一度目を閉じてまたアロイスを見た。



「貴方はいつも隣り合わせだ」

「え…?」



見上げてきたアロイスに跪き視線を合わせると、クロードはそっもアロイスの手を取った。



「昼を夜に、砂糖を塩に、生者と骸、穢れと純潔「違う!」



鋭く遮ると、アロイスは目に涙をためながら俯く。



「あいつの言うとおりだよ…俺はただの薄汚い小僧…」



胸ポケットからメガネを取り出し、クロードはメガネをかける。



「貴方は私の旦那様」

「もういい…どうせお前も」



話を遮るようにクロードはアロイスの頬を手で包み顔を上げさせる。



「私は貴方の忠実なる下僕(しもべ)。わざわざ気など引かなくとも、私は旦那様をーーーーあくまで貪りたい」

「……もういいよっ」



ばっとクロードの手を振り払うと、アロイスはその振り払った手で涙を拭う。



「みんな……闇に、溶けてしまえばいい」





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