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「明日の試合に仕事は関係あるのか?」

「なくはないが遠慮はいらん」



そう答えたシエルにエドワードは片頬だけを持ち上げ笑った。



「なら、そうさせてもらう!」

「あたしいーっぱい応援するから優勝してね!」

「あ、ああ」

「んがッ!!」



むぎゅ、とエリザベスは応援する気満々でシエルに抱きつく。当たり前だがエドワードに殺気が。



「フンッ。万年最下位の青寮が優勝できるものか!!」

『ちょっと…ハナから決めつけないでくれる?』

「ダリアの言う通りだぞ。現に一度だけ青寮が優勝したことがある」



実はウェストン校卒業生のアレクシス。



「そっ、それってもしかして「青の奇跡」のことですか!?」

「わっ」



にゅっとマクミランが目を輝かせて現れ出た。



「あっ、僕ファントムハイヴの親友のマクミランと申します。そのお話ぜひ聞かせてください侯爵!」



シエルは親友…?とそこに疑問を持った。



「いいとも。あれはわたしがエドと同じ緑寮で監督生の寮弟だった頃ーーーー…」






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「あいつ!今日という今日は許さん!!」

「先輩落ちついてくださいっ」

「これが落ちついていられるかミッドフォード!6月4日の準備をすっぽかす監督生がどこにいる!?」



アレクシスは怒り心頭の自分が寮弟として仕える先輩であり、緑寮の監督生であるディーデリヒをなんとか宥めようとする。



「大体あいつは…あ、おい!お前!」



見つけた後ろ姿にディーデリヒは大股で歩み寄る。



「カーヴァネット!」



ハニーブラウンの頭をした小柄な少年、カーヴァネットがきょとんと自身を指し振り向いた。ディーデリヒに気づくとぱっと人当たり良さそうな笑顔を浮かべる。



「どうもこんにちは先輩。それにミッドフォードも。僕に何か用ですか?」

「お前のところのホクロはどこに行った!?」

「ああ、人集りの向こうでのんびり読書中ですよ」

「!」



人集りの向こう、すなわち芝生の上には堂々と寝転び読書をしている生徒の姿が。



「おい起きろ!!ホクロ!!」



寝転がり読書をしている生徒をディーデリヒは見下ろす。



「あーあ。あと3分あれば読み終わったのに」



残念そうにディーデリヒに怒鳴られた生徒が呟いた。



「監督生は昼寝のために芝生に乗るのを許されているワケじゃないぞ!」

「そうカッカするなよディーデリヒ。それに俺はホクロじゃない」



むくりと起き上がった生徒は本を閉じてディーデリヒを見上げた。



「ヴィンセント・ファントムハイヴだ」



目尻にホクロがあるからホクロと呼ばれているようで、慣れた様子でヴィンセントは名乗る。



「ファーストネームで呼ぶな!ルール違反だぞ」

「ドイツって本当パンから人までなんでもお堅いよねぇ」

「貴様…ッ侮辱は許さんぞ!!」



カッと頭に血が昇ったディーデリヒは、草を払って立ち上がるヴィンセントへとバットを振り上げた。



「せんぱ…」



ドッ、と重たい音がして思わず目を閉じて背けたアレクシス。



「随分大きな栞だな」

「ぬうっ…」



バットはヴィンセントの本へと直撃しただけで、アレクシスはほっと胸を撫で下ろす。隣ではカーヴァネットが愉快そうに笑っている。



「チッ。貴様何故準備をサボった!」

「あれ?今日だっけ」

「僕はちゃんと言いましたよ〜」

「じゃあど忘れしてたみたいだ」

「なっ…ふざけるな!」

「ごめんごめん」

「おかげで全部俺がするハメになっただろう!!」

「えっ…やってくれたんだ。君いい奴だなぁ」



名物なのかまたあの二人だと人がさらに集まってくるが、どことなく嬉しそうだ。



「まったくなんでお前のような奴が監督生なんだ!」

「俺も知りたいね」

「監督生がこれでは寮生も程度が知れるな」



ピクッとヴィンセントがそれには反応を示した。



「俺はどう言われようとかまわない。でも他の青寮生まで悪く言うのはやめてくれない?」

「隊長は隊を象徴する。お前みたいな奴に従う奴らも、寮弟のカーヴァネットもその程度ということだ」



終始浮かべていた笑みが消え、ヴィンセントの空気が変わった。



「そこまで言うなら勝負しようか」

「何?」

「6月4日のクリケット大会でどっちの寮が勝つか?そして負けた方は相手の言うことをなんでも一つ聞く」



挑発するような視線を向けつつヴィンセントは笑みを浮かべた。



「ってのはどう?」

「……いいだろう」

「先輩っ!?」

「万年最下位寮に緑寮が負けるものか!!緑寮が勝ったらお前に監督生を降りてもらう!」

「そんなことでいいの?欲がないな。じゃ、俺も何か考えとくよ」



言ってヴィンセントは芝生から去ろうと歩き出した。



「約束を違えるなよ!」

「そっちこそ」



そして、大会当日決勝戦。



「嘘だ…この俺が…緑寮が…!!」



ディーデリヒを始め、フィールドには茫然と芝生に崩れ落ちる緑寮の姿が。



「青寮に負けるなんて!!」



ヴィンセントを中心に青寮生達は歓喜に満ち溢れ抱きしめあった。



「やった〜!!」

「青寮史上初の優勝だ〜!!!」



歴史的瞬間とも言えるこの結果に、大歓声は長い時間鳴り止まなかった。













「ファントムハイヴ」



白鳥宮へとやって来たディーデリヒにヴィンセントはふっと目を細めて笑うが、その口元を手紙で隠す。



「やっと俺の名前覚えてくれたんだ?ディーデリヒ」

「完敗だ。約束通りお前の言うことを一つ聞こう」

「そんなことも言ってたね。じゃあ一つだけ…」



立ち上がったヴィンセントはディーデリヒと向かい合うと、決めていたたった一つの願いを告げた。



「俺の寮弟になれ」

「は?」



眉根を寄せたディーデリヒから間抜けな声が出た。



「なっ、何を言ってる。お前に寮弟はいるだろ…第一俺は緑寮、貴様は青寮、しかも監督生だぞ!?」

「伝統は伝統、約束は約束。勝ったのは俺でしょ?」

「うぐっ…」



そう言われては何も言えない。



「これからは俺が呼んだらどこにいても飛んで来るんだ。必ずね」

「そ…卒業まで何か月あると思ってる!?」

「やだなーーーー」



こいつなら無理難題を押し付ける。そう分かっているから顔面蒼白させるディーデリヒにはは、とヴィンセントは笑って見せた。



「誰が卒業するまでなんて言った?」

「えっ、それはどういう…オイッ!?」

「出して」

「はーい」



ボートで釣りをしていたカーヴァネットは飛び乗ったヴィンセントに頷き漕ぎ出す。



「待て!話は終わってないぞ!!」

「俺の話は終わりだよ〜」

「こら〜ファントムハイヴ〜!!」



勝手に話を打ち切られ白鳥宮から怒鳴るように名前を呼ぶディーデリヒにクスッとヴィンセントは笑う。



「やっと手に入った。ずっと欲しかったんだよね」

「喧嘩友達をですか?」



まだ叫んでるな〜と白鳥宮を眺めるカーヴァネットへふっと笑うとヴィンセントは答えた。



「忠実なドイツ犬だよ」



寝そべったヴィンセントの目一杯に青空が映り、水面にも同じ青空が広がった。



「あ、追いかけて来た」

「まてーーーー!!!」

「あははは。雰囲気だいなしだよディー」



水の中を制服のまま突き進むディーデリヒ。眺めていたアレクシスはホロリと涙を零す。



「(二人共あんなに打ち解けて…)」



いやなんか違う。






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アレクシスの話が終わって、反応は様々だった。



「せ…先代が青寮に?」

「君のパパが「碧の奇跡」の立役者だなんて!!」

『(えー…あの人がまさかお父様の寮弟をしていたなんて…)』

「そうか…シエルはまだ知らなかったのか」



面食らうシエルにアレクシスは寂しそうに笑った。



「え…?お父様が寮弟…?」

「ヴィンセント伯父様より年下だったのか…」



アレクシスの子供たちは別の意味で衝撃を受けていた。



「実に鮮やかな試合だった。悔しいが完敗だったよ」



アレクシスはシエルの両肩へと手を置いた。



「君には天才ゲームメーカーの血が流れてる。頑張りたまえ」



その時大食堂内がざわつき始めた。



「おっ、何か始まるぞ」



ソーマが見る先で再びアガレスが壇上に上がった。



「皆様お待たせ致しました。これよりくじ引き(ドローイング・ロッツ)により対戦表を決定します」



ーーーーウェストン校の伝統により、クリケットの対戦相手は公平にくじで決める。



「君、帽子を貸してくれ」



ーーーーだが青寮の相手は決めてある。なぜならーーーー。



「では抽選者ーーーー各寮監は前へ!」



ーーーーセバスチャンに任せておけば間違いない。



「(前*骰ユ?馬鹿め)」



ーーーーゲームはすでに始まってるんだよ!!



「では初戦の対戦表を発表します!」



ーーーー碧の奇跡?笑わせる。僕は奇跡を信じない。



「(だから力ずくで勝利をもぎ取ってやる)」



1889年度。

寮対抗クリケット大会、初戦。

赤寮対青寮。





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